「記憶を消してプレイしたい」と、よく言われる名作ノベル系アドベンチャーゲーム『STEINS;GATE』(以下、オリジナル版)は2009年にXbox 360で発売され、さまざまなプラットフォームに移植されてきた。口コミにより売り上げを伸ばしていき、2011年にはTVアニメ(以下、アニメ版)が放映。劇場版が作られるなどして、続編ゲーム『STEINS;GATE 0』は2015年に発売。そして、続編のアニメ版は2018年9月26日に完結した。「STEINS;GATE」(通称シュタゲ)シリーズは今もなお語り継がれる名作というより、まだまだリアルタイムで未来まで楽しめる作品である。
オリジナル版シュタゲにアニメ版の素材をふんだんに利用して、全編アニメーションでプレイが進行するように現在に蘇らせた作品が『STEINS;GATE ELITE』(以下、エリート)だ。アニメのゲーム化ではなく、あくまでもオリジナル版シュタゲの視覚的な演出にアニメ版の素材を使ってリメイクしたものである。立ち絵とウィンドウ、たまに表示されるCGというノベル形式のゲームの視覚演出部分がアニメになったと想像していただければOKだ。
「ゲーム以上!アニメ以上!」の売り文句は、まったくもって正しい
エリートはこれからシュタゲシリーズに入る人にも、ゲームにはまだ触れていないという既存のファンなど、どのような層にもオススメできる作品だ。既存ファンたちはオリジナル版シュタゲを2009年から語り継いできたが、エリートは次の10年という未来に向けて新規ファンが語り継いでいくべき決定版になっている。公式サイトの「ゲーム以上!アニメ以上!」の売り文句は、まったくもって正しい。ファンからすると一部に残念な部分もあるが、それらを吹き飛ばすほどアニメ映像の力が強いのだ。
本格的にレビューに入るが、物語の核心に迫るネタバレは避けている。ある項目のみアニメ版シュタゲと比較しているので、若干のネタバレを含む。気になる人はその項目だけ読み飛ばしていただきたい。その項目では、もう一度ネタバレの警告をすると予告しておこう。
2018年の現在でも普遍的におもしろいストーリー
主人公の岡部倫太郎は、秋葉原で発明サークルを主宰する中2病の大学生だ。彼らは過去にメールを送れる装置を偶然にも発明してしまい、それを軸にSFストーリーが展開される。「本当にできるかもしれない」というリアリティを重視しており、「過去にメールを送れるのはなぜか」という点など科学的な考察がたくさん登場するのが魅力の1つだ。「99%の科学と1%のファンタジー」というのがシリーズのキャッチコピーになっている。緻密な伏線も特徴で、それらに魅了された過去のファンたちは本作を口コミで広げていった。

エリートのストーリー自体はオリジナル版シュタゲと同じものになっている。過去(2009年)の筆者にメールでオリジナル版シュタゲの点数を聞けるとしたら、ストーリーについては10.0点にするだろう。2018年の現在になっても楽しめる物語かどうかという部分についてコメントしておくと、本作は間違いなく現在でも楽しめる普遍的な物語である。2010年の秋葉原を舞台にしていて、たしかに登場するネットスラングなどは古いが、その時代を切り取った作品だと考えられるほど過去の話になったと言える。本作の最大の評価点は中2病の大学生を主人公にし、科学の話が満載というとっつきにくい作品に見えて、超王道のラブロマンスや人間ドラマを描ききったところにある。ストーリーについては過去に書かれたオリジナル版シュタゲのレビューなどがネットにたくさんあると思うので、そちらも確認していただきたい。
科学的な話が多い作品だが、アニメ映像があるとすんなり進められる
アニメ版のとっつきやすさと、ゲーム版の情報量の多さを両立している
アニメ版シュタゲでは1話23分と尺の都合で科学についての話がかなりカットされていたが、尺を気にしなくていいオリジナル版では科学についての話が本格的に展開される。科学トークは序盤に多く、オリジナル版シュタゲでは「退屈で耐えられない」という声を多く見てきた。エリートでは科学トークの最中にもアニメーションが使われるので、立ち絵とCGのみで展開されるオリジナル版シュタゲと比較すると、退屈になりにくい。新規ファンでも非常にとっつきやすい作品になっているだろう。既存ファンとしても、目と耳で情報が入ってくるので、本当に講義を受けているような気分になり情報が頭に入りやすかった。アニメ版のとっつきやすさと、ゲーム版の情報量の多さを両立しているのがエリートなのだ。
オリジナル版シュタゲにあった状況説明の文章については、エリートではアニメ映像で表現できるのでカットされている部分もある。ただし、主人公の心理描写はカットされていないし、体感9割ぐらいはオリジナル版の文章そのまま。基本的に情報量は失われていない。また、文章を読み返すバックログ機能はあるものの、映像の巻き戻しやジャンプ機能がないのは残念だ。携帯メールの文章が映像で表現されるケースもあるが、そちらはバックログを見ると文章も表示される。

エリートのキャラクターボイスはオリジナル版シュタゲの流用になっている。アニメ映像に合わせて収録された音声ではないが、口パクはしっかり合うように作られている点は開発者の作りこみによるものだ。ゲームのボイスは尺を気にする必要がないので、アニメ版を視聴しただけの人はややスローな話し方をしている印象を受けるかもしれない。オートモードにすると静止画+口パクのみの映像になりがちだが、本作はアニメではないのだ。視覚演出にアニメが使われているが、基本的にはノベルタイプのゲームであるため、ごくごく自然にボタン連打でメッセージ送りができる。
シュタゲシリーズは約9年も続いているため、声優の演技は最近まで放映されていたTVアニメ『シュタインズ・ゲート ゼロ』などでのものとは異なっている部分がある。初めてゲームのシュタゲに触れる人は、演技に違和感を持ってしまうかもしれない。エリートは新規ファンのためのゲームでもあるというところを考えると、新たに音声収録してほしかったとは思ってしまう。しかし、既存ファンとしては昔の演技に懐かしさを感じて安心できる。賛否両論あるだろうが、昔の声優の演技も体感してみてほしい。過去から現在までの時の流れを感じられるはずだ。
アドベンチャー要素がカットされ、主人公とシンクロする感覚がやや失われている
シュタゲはケータイ(ガラケー)がカギになる物語だ。オリジナル版シュタゲはフォーントリガーという分岐システムを搭載。ゲーム中に自由にケータイを取り出し、ときどき登場人物から送られてくるメールに返信したり、電話したりする。ケータイの操作でルート分岐するというシステムになっていた。
主人公とのシンクロ感はやや失われている
オリジナル版シュタゲでは、登場人物と会話をしている真っ最中にメールが届く。ゲーム中は自分で自由にケータイを開いて返信するというシステムになっていたが、エリートでは物語の合間にぶつ切りでメール返信画面に移行する。オリジナル版シュタゲではケータイの壁紙や着メロを自由に設定でき、自分でケータイを操作している感覚があった。一方のエリートでは物語に集中させるためか、自由にケータイを操作できない。ケータイを操作できる場面では、明確にゲーム側から操作を促される。そのため、主人公とのシンクロ感はやや失われている。
ただし、エリートではアニメ映像によって画面の情報量が増えているのでケータイの操作までゲームに入れてしまうと、物語に集中できなくなってしまうかもしれない。また、ライターの渡辺卓也も言っているように(リンク先はネタバレがあるので、シュタゲにまだ触れていない人は注意)、フォーントリガーはプレイヤーにリアリティーを感じさせるための要素の1つであった(科学理論もその1つ)。ゲームの企画段階では実際のケータイでゲームを操作するというプランがあったほどだ(ファミ通による志倉千代丸氏のインタビューでも語られている)。今が2018年だと考えると、ガラケーの操作によって主人公とプレイヤーをシンクロさせるというのはたしかに無理があるかもしれない。2018年に生きる我々は、ガラケーの操作などしないのだ。残念な部分もあるが、時代に合わせた作りを目指してケータイの操作については簡略化したのだろう。結果として、アドベンチャーゲームに慣れていないアニメファンでも物語に集中して遊びやすくなっている。
個別ルートの新規アニメーションは、キャラの再評価に繋がる
※この項目では、若干のネタバレを含んでいる。まだシュタゲに触れていない人は読み飛ばしてもらっても構わない。
アニメ版シュタゲは媒体の都合上、オリジナル版にあった各キャラルートについては描けていなかった。エリートでは、各キャラルートなど描けていなかった部分のアニメーションを新規に制作。既存ファンにとっては、一番楽しみな部分だろう。
サイクリングのシーンなど見たかった人が多いだろうシーンがちゃんとある
各キャラルートの新規アニメは特別にカット数が少ないというわけでもなく、作画の違和感も少ない。この部分だけ浮いていたりしないかと心配したが、とくに問題はなかった。サイクリングのシーンなど見たかった人が多いだろうシーンがちゃんとある。「岡部たちは、こんな表情をしていたのか!」となってしまい、よりエモーショナルだ。
一方の不満点は、ヒロインの1人、フェイリスのルートだ。アニメ版シュタゲでは、オリジナル版に登場した4℃(シド)というサブキャラクターがほぼカットされていたため、アニメ映像がないのだ。それをエリートでも引きずっており、4℃のセリフはエリートでは一言二言しかない。「新規カットを制作する」と宣伝されていたので期待した部分だったのだが、ツギハギ感が感じられてしまった。ほかのルートでも新規カットがほしいのに、ない部分があった。

フェイリスファンのために言っておくと、彼女のルートの序盤は4℃がカットされていて残念だが、後半は新規アニメーションが上手く機能している。正直に言ってオリジナル版をプレイしたときには筆者は印象に残らなかったルートである。しかし、新規作画による彼女の表情は魅力的だ。あまり印象に残らなかった部分も、映像があると印象に残るのだ。どのように魅力的かは実際にプレイしてもらいたい。
次の10年に向け語り継ぐべき決定版 既存ファン、アニメファン、新規ファン誰でもオススメ
再構築されたシュタゲ本編のゲームの決定版
まとめよう。エリートはアニメの視覚的演出を取り入れただけでなく、2018年の現在でもプレイしやすいようにきちんと再構築されたシュタゲ本編のゲームの決定版になっていた。すでにオリジナル版シュタゲをプレイしているファンはアドベンチャー要素がカットされて残念な気分もあるかもしれない。しかし、アニメ映像とゲームの科学トークの融合は意外なほどに新鮮だし、何気ないシーンでもアニメ映像があると印象に残るはず。特に個別ルートの新規カットはエリートでないと体験できないものだ。
アニメ版シュタゲを視聴したが、まだゲームに触れていないという人にはゲーム版の科学トークの濃密さやルート分岐による各キャラルートを堪能してほしい。もちろん、アニメ版にもゲーム版にもまだ触れていないという人にはエリートからシュタゲシリーズに入るのが現状ではいちばんオススメだ。アニメ以上、ゲーム以上の売り文句は正しく、オリジナル版シュタゲは2009年に発売されたが、エリートは次の10年に向けて語り継いでいくべき新たなシュタゲ本編になっている。
また、エリートのNintendo Switch版の初回特典は、新作ゲーム『ファミコレADV シュタインズ・ゲート』というものだ。これは「もし1980年代にシュタゲがあったら?」をコンセプトにした、ファミコンのようなアドベンチャーゲームだ。ストーリーはシュタゲ本編を超圧縮したオリジナルのものなので、ゲーム序盤からネタバレされてしまう。絶対にシュタゲの本編をクリアしてからプレイしてもらいたい。ゲームの内容はガチのファミコンゲームで、選択肢を間違えたらゲームオーバーになったりする。シリーズファン的にはボリュームは「シュタゲ 8bit」こと『STEINS;GATE 変移空間のオクテット』ぐらいのものを想像すればいいだろう。
筆者はファミコンのアドベンチャーどころかファミコンの実機にすら触れていない世代だが、「当時のアドベンチャーゲームはこうだったのか」と学びがあった。ややシュタゲのコンセプトから外れているのではと思った部分があるが、ファミコンを知らない世代にもプレイしてもらいたい。初回特典なので、まだ店頭にあるパッケージ版には付いてくるだろう。DL版では予約特典だったので、もう付かない点は注意してほしい。なお、本レビューの点数に『ファミコレADV シュタインズ・ゲート』は影響していない。
THE VERDICT(判定)
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映像付きで退屈しにくい序盤
カットされていない情報量
個別ルートの新規アニメーション
普遍的におもしろいストーリー
アドベンチャー要素が失われている
ボイスが旧作の流用
見たかった新規アニメーションがない