格闘ゲームというジャンルは覚えることが多く敷居が高い。加えて少しでもプレイヤーの実力に差がつくと、キャラクターの体力はもちろんプレイヤーのやる気も含めて根こそぎかっさらわれてしまうほど蹂躙されかねない。
そこで「ワンボタンで必殺技」、「ボタン連打で簡単コンボ」など、格闘ゲームの間口を広げるさまざまな試みが初心者向けに生み出されてきた。単純に遊びやすくするためや、簡単コンボであればその爽快感(格闘ゲームとしての楽しさ)を知ってもらうためにも重要だ。そうした意味で期待していたのがSNKの『SNKヒロインズ Tag Team Frenzy』だ。
とはいうものの、あまつさえSNKの歴代ヒロインキャラクターが集結させた色物枠なのに、餓狼伝説シリーズで主人公を務めた人気キャラクターの、テリー・ボガード(男性)を女性に変化させるという暴挙も行った。人気取りのために少々なりふり構っていない感じだ……が、個人的には大好きなノリと言える。

だが、どのような姿になろうともSNKの格闘ゲームだ。その根幹は、キャラクターの癖を覚えたりコンボを探求するのが楽しい本格的な一面も残っている「本格派格闘ゲームの入門」のような位置づけの作品だ。
『SNKヒロインズ』はザックリこんなゲーム
本作の基本は、2対2による2Dスタイルのタッグバトルで、1本の体力ゲージを2人で仲良く共有する珍しいシステムを導入している。そのため体力を減らされたからと言って、いつもの調子でキャラクターチェンジで逃げても意味はない。慣れるまで何度もやらかしてしまったが……。
本作では体力の代わりに、必殺技などを使うために必要な気力ゲージの回復のためにキャラクターチェンジを行う。本作で必殺技をボタンひとつで通常技のように使えるため、消耗が激しく気力の管理は重要となる。
そして体力は、どれだけボッコボコにされても尽きることがなく、永遠に戦うこともできるのだ……これで初心者も安心だ! とはいえ、それではゲームにならない。
ではどうやって勝負の決着とするのか? それは相手の体力ゲージが赤くなるまで減少させたあとに、「ドリームフィニッシュ」というスペシャル技を叩き込むことで決着がつく。これもまた珍しいカジュアル思考のシステムだ。

このドリームフィニッシュ、間合いをつかむまで初心者も上級者も関係なく意外と外し気味で、その頃の泥仕合はとても楽しかった。ただドリームフィニッシュをコンボに組み込めるため、慣れるに従って独特の緊張感は薄まってしまう。
相手の体力を最小にまで減らすと、あらゆる攻撃1発で気絶させられるシステムもあるので、ドリームフィニッシュはコンボに組み込めないようにして、隙を見ながら狙い合う方がよかったような気もする。
本来であれば格闘ゲームとして欠かせない奥行きを持たせる複雑な要素を排除
カジュアル思考のゲームといえど、攻撃とガード、ガードを破壊し気絶させるガードクラッシュや、投げも絡めた格闘ゲームの基本は存在する。しかしコマンド入力の排除や、上段下段の攻防といった、本来であれば格闘ゲームとして欠かせない奥行きを持たせる複雑な要素を排除して、難易度を大胆に下げている。
「初心者にも簡単な波動拳コマンド?なにそれ?初心者はそれすら知りませんから!」そこまで気を遣ったのかどうかはさておき、そういった基本的な攻防における複雑な要素が省かれているため、格闘ゲーム初心者でも遊びやすくなっているのは事実だ。特に下段の攻防というのは地味なくせに難易度を底上げいるので、これがなくなっただけでもかなり難易度が低くなっている。
逆に言えば上下への牽制に組み立てや、少しずつ動きを覚えながら、いつの間にか「自然に相手のコンボに合わせて体(手)が動いてガード!」みたいな、格闘ゲームとしての楽しさが減っているとも言える。そのため、SNKが作るガチの格闘ゲームとして期待をすると少し肩すかしを食らってしまうだろう。
格闘ゲームとしてのテイストは如何に
ほかにも飛び道具系の必殺技がポップで可愛らしい見た目に変化していたりと、カジュアルな要素をふんだんに盛り込んでいるが、根底に見え隠れするのは本格派の格闘ゲーム。
弱弱強や、弱弱必など初心者にも優しいお手軽なコンボはもちろん、テクニカルなコンボも残っている。ただその流れはほとんどのキャラクターで共通する部分が多く、例えば弱弱強で敵を吹き飛ばしてから、低空ダッシュで瞬時に間合いを詰めて追い打ちをかけるなどが存在する。

また、そんなテクニカルな戦い方は無理! という人も、テリーやムイムイなどお手軽なコンボを持っているキャラクタもいる。中でもテリーは軽くテクニカルだけど楽に大きいコンボへ繋げられるため、コンボの流れを覚えるのに最適だ。
そういったコンボに欠かせない必殺技は、ドリームフィニッシュも含めて専用のボタンと方向キーの組み合わせで使えるお手軽仕様。ただしいずれも気力ゲージを消費するため、手軽すぎるが故に気力が枯渇しやすい。

この気力は微量ながら自然に回復するが、キャラチェンジをして消耗したキャラクターを裏に回すことで、気力が一気にモリモリ回復していく。そのためこまめなキャラチェンジを繰り返しながら戦うのがセオリーとなってくる。
複数のキャラを操作するのは大変そうだが、基本的に全キャラクターでコンボの道筋が共通部分が多いため使分けは比較的容易だ。多少使い分けが難しいキャラクターでも、適当なガチャプレイでも結構キャンセルチェンジ(攻撃中に気力を消費することで、強制的にキャラチェンジを行う)からのコンボも狙いやすい。
そのため多少扱いが難しいキャラクターでもパートナーで補えるので、キャラクターの見た目や必殺技の使い勝手など、積極的に好きなキャラを選んで遊びやすい。
さすがにオンラインで安定した勝利を目指そうとすると話は大きく変わるが、「鉄拳」や「ストリートファイター」など本格的な格闘ゲームとは違い、極端に一方的に蹂躙されるようなことは少ない。
それを軽く支えてくれているのが、ランダムで出現するアイテムボックスから入手できる攻撃・回復・妨害などがか可能なアイテムの存在だ。体力や気力を回復させる「援護アイテム」や、敵にダメージや転倒などの効果を与える「妨害アイテム」などがあり、様々な形でプレイヤーの窮地を救ってくれる。
使い勝手が微妙なものが多いのであくまで補助的だが、攻撃に重ねたり、相手のコンボに合わせて妨害して逃げるなど、プレイヤー次第の考え方で使い分けができる面白さもある。

もっと初心者に戦い方の道筋を用意すべきだ
アイテムは控え(ステージ奥)のサポートキャラが使う設定になっており、控えキャラによって効果が違う「SPアイテム」も存在する。また、1人が1キャラを操作する4人マルチプレイなどでは、控えに回ったプレイヤーがアイテムを使うことになる。
以上、全体的に格闘ゲームの中では格段に遊びやすくなっていると感じる本作。可能な限り時間を費やしプレイをしたが、格闘ゲームとして簡単すぎず難しすぎず、ジャンルの間口を広げるためのポテンシャルをかなり感じた。しかし、もっと初心者に戦い方の道筋を用意すべきだろう。
どこまで操作方法の選択肢を減らして対戦を簡単にしても、根底に格闘ゲームの魂を込めている以上、どうしても経験の差が出てしまう。であるならば、可能な限り戦い方の真に迫るための経験を積ませるチュートリアルの構築こそが、実のところ一番の格闘ゲームの間口を広げる近道だと思うわけだ。(これは本作に限った話ではないが)。
シングルモード
AIといえば欠かせないのがストーリーを中心としたシングルモードだが、シングルモードに関してはかなり酷い。たまにいい意味で「酷い」という単語を使ったりもするのだが、内容は乏しく正真正銘いいところがない。
まずストーリーの内容が薄っぺらい。ヒロインたちは、趣味まるだしの恥ずかしい衣装に身をまとった状態で、謎の館の中で目を覚ました……という流れでスタートする。それなりに思わせぶりだが、開始3分ほどでその謎は判明し、特にこれと言った動きがないまま物語は終焉を迎える(一応オチはつく)。
キャラクターを特定の組み合わせで選ぶことで会話の内容に若干の変化が生まれたりする……が、基本的に棒立ちで会話をするだけなので、記憶に残るような変化や展開は生まれない。一応ラスボスである黒幕は、最後の最後に記憶に残る派手なパフォーマンスを見せながら力尽きるが……派手なだけでその演出に意味は感じない。
加えてカジュアル向けのゲームとしてはAIが強いため、手こずったあとだとクリアしても尚ストレスが貯まる演出で滑り気味。そもそも黒幕の性根に問題があるためキャラクターとしての魅力を感じづらい。(SNKファンなら、ここまで言えば誰のことだか見当がつくと思う。)

本作のヒロインたちは、舞台に立つのにメイクを忘れたスーパーモデル
また同様に、グラフィックやオンラインまわりなど多くの部分で不備を感じてしまう。まず背景に関しては及第点なのだが、キャラクターのCGはPS3世代の品質だ。
立体物としての3Dモデル自体は細かいのだが、肌のテクスチャや衣装などのマテリアル(素材の質感)がおざなりで、デザインが古くさく感じてしまう。ゲームなどのCGキャラクターは、ちょっと濃いよ!と言われるぐらいが意外と丁度いい。せっかく顔立ちはいいのに本作のヒロインたちは、舞台に立つのにメイクを忘れたスーパーモデルといったところだろう。
もちろん濃すぎるのも考え物だが、それならそれでトゥーンなど、シェーダー側(モデルに例えるなら照明)で個性を出す努力が必要だった。
個性を引き出す出すカスタマイズと言うより、衣装のカラーやパーツで好みに微調整
また、売りとされていたキャラクターカスタマイズについても、用意されているパーツが少なくかなり肩すかしだ。しかも3種類用意されている各キャラクターの衣装に付属する一部のパーツを、ゲーム内通貨でほかのキャラクターで使えるよう解放するような既存パーツが大半だ。
さらに髪型は変更できない、色は個別で変更できず全体を5パターンのセットから選ぶのみなど、キャラクターのカスタマイズで個性を見いだすのは困難を極める。そのため個性を引き出す出すカスタマイズと言うより、衣装のカラーやパーツで好みに微調整という表現があっているだろう。

そして、格闘ゲームとして一番肝心なのはやはり対人戦となるオンラインモードだろう。本作でメインとなるのはクイックマッチで、「ノーマル対戦」とゲーム内通貨を賭ける「ゴールド対戦」が用意されている。
しかし、対戦格闘で一番必要と感じるランクマッチが存在せず、オンラインにおけるモチベーションの維持がとても難しい。それ以前にランクマッチはプレイヤーのレベルをある程度仕分ける道しるべになっているため、それが存在しない本作ではプレイヤーのレベル差が激しいマッチングが発生しやすい。
お手軽なゲームシステムがプレイヤーの実力差のクッションになってくれているが、それでも限度はある。一応複数人での対戦も可能なルームマッチで初心者部屋などを作れるが、人が少ないため満足な対戦をするのは厳しめだ。
同じレベルの対戦相手と遊べる仕組みがないのは本当に残念
個人的にはあまり勝敗を気にせず、強者と戦い一矢報いるのが好きな性格なのであまり問題はないが、普通は中々そうはいかないと思う。せっかくカジュアルな方向にうまくまとめられているのに、その初心者同士など、同じレベルの対戦相手と遊べる仕組みがないのは本当に残念だ。
しかし問題点が山積とはいえ、本作はまだ登場したばかりだ。そして本格的な格闘ゲームの入門としてはかなり絶妙なバランスでまとまっている。アップデートでも新作でもいいので、SNKは一歩ずつ根気よく改良を重ねながら、このタイトルを大切に育ててほしいと思う。
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テリーの女体化も含むSNKヒロイン大集合
カジュアル向けに大胆に機能を絞った格闘システム
格闘ゲーム初心者の入門に最適なゲームバランス
中身のないストーリーモード
CGキャラの作りが若干古くさい
ランクマッチが存在しない
不自由なキャラクターカスタマイズ