2014年リリースされた『The Banner Saga』はBioWare出身のインディーデベロッパーStoic Studioによって開発されたシミュレーションRPGだ。2016年に『The Banner Saga 2』、そして今年、2018年7月にシリーズ完結作『The Banner Saga 3』を発表した。過去作それぞれに対して、8.4、8.9という高いスコアをつけている私は本作のファンであると言って過言ではなく、続編の発売を今か今かと待っていた。なにしろ本シリーズのエンディングは毎回、海外ドラマのような強烈なクリフハンガーで幕を閉じるため、2年のインターバルは正直、酷すぎる。個人的にも、こんなに続編が待ち遠しいタイトルも珍しいくらいだ。
本作の日本語ローカライズの質は低い。
しかしながら、本作をレビューすることには多大な困難を感じた。そもそも2年のインターバルは話の内容を忘却させ、スムーズなプレイの妨げになる。またレビューの読者はいったい誰なんだろうか? シリーズをプレイしている人なのか、そうではない新規のユーザーなのか。プレイした人でも本作は選択肢によって、ダイナミックな変化が発生する。極端な話、主人公すら違うのだ。しかし、そういったこと以上に問題なのはローライズである。
はっきりと言えば、本作の日本語ローカライズの質は低い。海外インディーゲームのローカライズとしては極めて悪いというほどではないが、本作がシリーズものであること、ストーリーに極めて重きを置いた作品であること、そもそもの世界設定やストーリーが難解であることを考えるとこれは由々しき事態である。前二作が日本の架け橋ゲームズによる繊細で素晴らしいローカライズであっただけに、その落差はかなりのものだ。
本レビューの内容やスコアはあくまで日本語版のもの
本作のローカライズの問題点を具体的に指摘すれば、敬体と常体の混在、人称の不一致、不適切なカタカナ、キャラクターに似つかわしくないダイアログと様々ある。ゲームプレイ自体は可能であり、ほとんどの文章の意味は把握できるが、文体が統一されていないため、全体の雰囲気が非常にちぐはぐである。さらにもとのストーリーもダイアログも非常に繊細かつ複雑なゲームであるため、プレイヤーは物語に集中することがかなり困難となる。それぞれの翻訳者はきっちりと仕事をこなしており、前作の用語集を正しく使用しているのだが、おそらく彼らは実際にゲームをプレイしていないだろうし、ネイティブのプレイヤーによるLQA(日本語実装後のプレイテスト)をしっかりとおこなっていないのは確かだ。
本シリーズのファンとしてはレビューを見送りたい気持ちもあった。しかしながら、すでに公式にリリースされた作品であるわけだから、それをレビューしないのもフェアとは言えず、このような品質でゲームを発表するパブリッシャーに異議を唱える意味もある。そのため、本レビューの内容やスコアはあくまで日本語版のものであり、海外でのレビューから大きく評価が外れることもご承知いただきたい。もともとの作品の素晴らしさは日本語版をプレイしてもある程度推測できるし、なんなら英語でプレイすることも可能だ。しかし、日本のゲームプレイヤーとしてローカライズの問題は無視できないため、シリーズ知ってる人向けに書くとしよう。
クライマックスを印象づけるゲームメカニクスの大胆な省略
シリーズ全体を通して見た場合、ややスローペースであった前作に比べて、本作は序盤からクライマックスがこれでもかと描かれる。これはゲームプレイと物語の両方に当てはまるが、それ以上にそれらが連動して描かれるところが、本作の美点であると言える。プレイヤーが操作する部隊は大きくふたつに別れ、それぞれに戦闘とエピソードが発生する。ひとつは人間の王都であるアルバーラングの籠城戦と都市の崩壊であり、ひとつは闇に包まれた不思議な世界の絶望に満ちた探求である。
前作にあったようなリソースマネジメントの要素が後退していく
ゲームプレイでは、前作にあったようなリソースマネジメント(特に『The Banner Saga 2』)の要素が後退していく。アルバーラングでは逼迫した状況の中、前作に続いて人間とドレッジの戦いだけではなく、新たに闇に侵されたワープという敵対者が登場する。しかし残されたリソースや王都の覇権を巡って、人間同士の争いも発生する。結果としてキャラバンを運営して旅をするという要素はほぼなくなり、争いに次ぐ争いをなんとか生きのびることに焦点が当たる。もちろん、主人公は氏族をまとめる長であるため、それにふさわしい振る舞いのため、何度も困難な決断を迫られるのではあるが。
他方、闇の世界を探求する一行にはもはや通常の理は通じない。本作の上級魔法使いとでもいうべき「ヴァルカ」のジュノの力により、キャラバンは闇の中でも光に守られながら行軍する。キャラバンの一行は飢えや乾きを感じながらも、実際には餓死することなく、進んでいく。その代償としてか、あるものは妄想に囚われ、あるものは過去に取り憑かれ、仲違いも頻繁に発生する。ここでも前作にあったリソースマネジメントの要素は大胆にも放棄され、過酷な行軍と散発的な戦闘が描かれることになる。
このようなゲームメカニクスの省略化はそれだけ見ると、ゲームの規模を縮小しただけのように感じるかもしれない。しかしながら、物語のクライマックスを描くには、前作のようなマネジメントを要する行軍は不要という判断が感じられ、むしろ演出面でのメリハリを感じさせる作りとなっている(そもそも、前作におけるリソースマネジメントの要素がそこまで成功していないという反省もあるかもしれない)。
ふたつの部隊が物語とゲームプレイで噛み合う
最後の最後で危機一髪、難を免れるという演出
以上のように本作はふたつの部隊を交互に描くことで展開していく。そのふたつの部隊は当初は独立したものとして描かれるが、物語の中盤から緩やかにつながり、本作の本当のクライマックスではうまく歯車が噛み合っていく。
具体的に説明すると、アルバーラングではメンダー(魔法使いのような存在)たちが協力して闇から都市を守ろうとするが、そこでの選択肢や戦闘の結果によって、都市を防衛できた日数が決定される。他方、闇の世界を探求するキャラバンはこの防衛日数に応じた行軍が可能となり、日数がゼロになったところで戦闘が発生する。つまり、都市での籠城戦と物語の結末への行軍が連動するデザインになっており、最終的に都市が崩壊する最後の最後で危機一髪、難を免れるという演出がなされているのだ。
メインストーリー以外のプロットで描かれるエピソードも興味に深い
ふたつの部隊による連携によって世界の危機を免れるという意味では『指輪物語』のクライマックス――ガンダルフやアラゴルンによる黒門での陽動戦とフロドとサムによる滅びの山での指輪の破壊――を彷彿とさせる演出だ。互いの部隊の行動が読めない中、仲間の行動を信頼して戦い抜くという設定は非常にエモーショナルであり、本作では人間と巨人族であるヴァールの友情がその根幹をつらぬいている。そして、単なる物語だけではなく、部隊とユニットによって扱うSPRGの利点を巧みに利用している。
最終的な物語のオチに関しては意見が分かれる内容であり、戦闘も一部のものを除けば、敗北しても先に進めるため、やや緊張感に欠けている。しかしながら、少なくともそこまで至る過程は物語的にもゲームプレイ的にも最終作にふさわしい盛り上がりが感じられる。さらに言えば、メインストーリー以外のプロットで描かれるエピソードも興味に深いテーマを持っている。種族間の差別、権力の闘争、リーダーの苦悩など、戦争や災害という状況におけるかなり広範なテーマを多数のキャラクターで描いているのはさすがBioWare出身のデベロッパーと思わせてくれる。
だが、残念なことに日本語ではこれらの細かい機微を読み解くのは困難だ。特に闇の世界を探求するキャラバンの一行は狂気に取り憑かれていくのだが、彼らのセリフのおかしなところがローカライズによるものか、演出なのかはっきりしないところが多々あった。ただでさえ、行間を読ませる文章が多い本シリーズとあって、ローカライズのちょっとした違和感も鑑賞を妨げてくる。
やや控えめになったビジュアルと細かな選択肢で描かれる世界
戦闘システム等はほとんど前作と同様である。ユニットごとのターン制というシステムを採用しているため、比較的最後まで接戦になりやすいという特徴がある(ユニット数が減ってもターンは常に交互に行われるため、実質、ユニットが少ない方が行動回数が多い)。本作ではウェーブごとに戦闘か逃走かを選択できる、波状攻撃のバトルも追加された。ウェーブをすべて倒せば、アイテムをゲットできるという要素はあるが、それほどゲーム全体には影響しない。またレベルが一定以上になったユニットには「英雄的称号」というさらなるアップグレードが可能になった。
3作目となると素晴らしいアートワークへの驚きは最初の頃に比べるとどうしても減ってしまう。しかしながら、やはり陥落していくアルバーラングやその城塞、闇の世界の不思議な構造物が美しく壮大なミニアチュールとして描かれるのは圧巻だ。とはいえ、全体として過去作にあったアニメーションによるカットシーン部分は少なめになっており、ビジュアル面でのリッチさは控えめになったと言える。オースティン・ウィントリーのサウンドトラックも健在で、挑戦的ではないにしろ、エピックであることは間違いない。
そして、細かい部分までカバーしている実績要素は本作の選択肢の多用さを教えてくれる。途中で死んだあのキャラクターを救うことができると知れば、リプレイの十分な動機になるだろう。エンディング自体はかなりあっけないが、物語の周囲や世界の設定を拾うのが好きなプレイヤーにはやりがいのあるものに仕上がっている。日本語の問題も含めて、私は難易度ハードの英語バージョンで最初からやり直したいと考えている。
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クライマックスにふさわしい物語とゲームプレイ
様々な選択肢で描かれる深いテーマ
ふたつの部隊の巧みな描写
ローカライズの甘さ
前作からみると控えめになったアート