リッスン! これはレッスンだ。ヒップホップはラップやDJだけじゃない。グラフィティやブレイクダンスも重要な仲間だ。いや、本質的なのは形じゃない。ストリートをキャンバスに見立てて、お前の気持ちをクールにアピールすること。それがヒップホップだ。
踊れない人も自然と尻が浮いてくる
本作『Floor Kids』はカジュアルなダンスゲームを通じて、以上のようなヒップホップの美学を教えてくれるゲームだ。ゲームプレイ自体は非常にシンプル。ビートに合わせてボタンをタップしたり、ホールドしたりするだけで、踊れない人も自然と尻が浮いてくる。
本作のダンスには4つのカテゴリーがある。スタンディングでステップを踏むトップロック、屈んだ状態でステップを踏むダウンロック、跳ねたり回ったりアクロバティックなパワームーブ、かっこいいポーズを決めて一定時間静止するフリーズ。これらは実際のブレイクダンスにもある要素で、シックスステップ、ウィンドミル、チェアーなど、実在の技が数十種類登場する。

リアリティと可愛らしさが同居したビジュアルスタイルは唯一無比
本作の最大のアピールポイントはこれらのダンスのモーションにある。モントリオールを拠点とするアニメーターJonJonによるキュートでポップな絵で描かれたダンサーたちが、生き生きと踊っている姿はただ見ているだけでも楽しい。個々のステップやモーションだけではなく、そこへ至る動作のモーションもしっかりと描かれており、リアリティと可愛らしさが同居したビジュアルスタイルは唯一無比といって良いものだ。
また音楽は世界的なDJのKid Koalaが担当。本作に合わせて書き下ろされたトラックは、ファンクやジャズ、ゲーム音楽といったモチーフを扱いながらもオールドスクールなヒップホップビートに仕上がっている。SEなどで使用される子供の声も可愛らしく、ヒップホップのワルい雰囲気ではなく、クリエイティブでピースフルな要素を強調しているのも特徴的だ。
以上のようにビジュアルや音楽からヒップホップの本物のヴァイブスが感じれる。以前の記事でも言及したとおり、本作の企画はJonJonとKid Koalaによるショートアニメであったそうで、ヒップホップの魅力を伝えようとする並々ならぬ意欲を感じる。そしてゲームプレイにおいてもそれは変わらない。
完全なフリースタイル
ゲームプレイ自体は非常にシンプルなものだ。プレイヤーは好きなキャラクターを選択して、それぞれ3つのトラックが用意されている8つのステージに挑戦する。トラックは2分程度の短い楽曲にまとまっており、プレイヤーはボタンをタップしたり、スティックを回転したりしながら、自由に踊るのだ。どんな技を披露するのかは自由。楽曲中に2回発生するコーラスパートで特定のリズムに合わせてボタンをタップする以外は、完全なフリースタイルなのだ。ただし高得点を目指すならば、オーディエンスのリクエストに応えたり、特定のムーブを連続して行うコンボを決めたりしなければならない。

とはいえ、最初のステージは適当にボタンをタップしたり、スティックを回したりするだけで3 つ星(最高で5星)は獲得できるだろう。これらの星を集めることで新しいステージをアンロックする形式だが、序盤のステージは特に何も考えなくても進めることができる。コンボは始動技を決めるとリアルタイムで次の技がサジェストされるため、やりながら覚えていくことができる。それぞれのキャラクターに4つのコンボが用意されており、後半のステージで高得点を目指すにはすべてのコンボをタイミング良く行う必要がある。
キャラクターは全部で8人。それぞれ得意とする16の技を持っている。最初に選択したキャラクター以外は星を獲得していくことでアンロックすることが可能だ。

ビデオゲームを通してヒップホップカルチャーの魅力と価値観を伝えること
本作の問題点をひとつ上げるならば、ゲームとしての難易度が低すぎることだろうか。プレイヤー同士で対戦するローカルマルチプレイを別にすると、1日ですべてのステージで5つ星を獲得することができる。サウンドとビジュアルが個性的で触っているだけでなんとなく楽しいといった原始的な魅力はあるが、決められた課題を乗り越えるという部分では確かにやりごたえは薄いかもしれない。
しかしながら、本作の主眼はビデオゲームを通してヒップホップカルチャーの魅力と価値観――ファンクでクールでフレッシュ――を伝えることにあるだろう。その点では本作は十分にその目標を達成していると思えるし、フリースタイルのブレイクダンスは特定の課題があるというわけではない。それは確かに“ゲーム(競争)“なのだが、そこで競われるのは単なる一定の技術や正確さではない。もしも現実のダンスバトルのように、プレイヤーのパフォーマンスがオーディエンスから評価されるようなシステムが実現していたなら、より良いものとなっただろうが、通常のビデオゲームのようなハードルは必ずしも必要ないだろう。

そして、たとえステージをすべてクリアしても、通常の技の間に宙返りを放つフリップ、フリーズ中に跳びはねるホップなど、まだまだスコアを伸ばす要素は尽きない。これらの要素をすべて織り交ぜてハイスコアを目指すかどうかは自分次第。あくまでもヒップホップは自己表現であり、最後は自分との戦いなのである。DLCでの追加トラックくらいは期待したいのではあるが。