「エージェンツ オブ メイヘム」での体験は、30時間プレイした後でさえ脳裏に焼き付いて離れない、ゲーム内のとある奇妙な光景に要約できる。スマートに言葉を話すAIスーパーカーを呼び寄せる際、指定された場所に立つと、猛スピードで横切る車に派手なアクションで飛び乗ることができる。確かに見事な動きなのかもしれないが、なぜか車内に入った途端に必ず車が止まり、ゼロから再加速するしかないので、全体的には決してスムーズではない。そして、このつまずくような感覚が、このヒーロー戦隊風TPSのプレイ中、ずっと付いて回った。
本作は完全にそのルーツであるテレビの戦隊ものに忠実である。キャッチーな主題歌、アニメーションのカットシーン、そしてロード画面の合間に現れる「Knowing is Half the Battle(知れば勝ったも同然)」的な人生訓まで備わっており、米国の往時の戦隊アクション番組を彷彿とさせる。悪の組織「L.E.G.I.O.N.(League of Evil Gentlemen Intent on Obliterating Nations=悪の紳士達による国家を破壊せんと目論む同盟)」に征服された世界で、唯一の対抗勢力である「M.A.Y.H.E.M.(Multinational AgencY for Hunting Evil Masterminds=多国籍悪モノ皆殺しエージェンシー)」が立ち上がった。
欧米や日本の都市ではない現代世界のオープンワールドというのは、自ずと新鮮なものとなる。
この世界では、韓国及びソウルが世界最高峰のテクノロジーの拠点となっており(実に十分現実的なアイデアだ)、欧米や日本の都市ではない現代世界のオープンワールドというのは、自ずと新鮮なものとなる。
しかし、ソウルの多彩でバラエティ豊かな街とその住民が、単なる見せかけのものとして扱われていることは残念だ。一般市民のNPCは、基本的には背景にある他の物と同様、戦闘中に“破壊”されるためだけに存在する“ガラクタ”に過ぎない。また、ソウルの生き生きとした路上でやれることが大量にあるにも関わらず、それらのアクティビティーがほとんど全て面白味のない、ただの「やれること」となっている。時折出てくるL.E.G.I.O.N.の最終兵器たちを停止させるクエストを除いて、様々な「やれること」にはマップにポイントを追加するという最も単純な意味しかない。
本作のメインディッシュであるキャンペーン(ストーリーモード)全体においても、同じような退屈さが感じられる。各エピソード(物語の一つひとつの区切りがテレビ番組「エージェンツ オブ メイヘム」の1話分として扱われる)の敵キャラクターの中で、面白く思えたのは1、2人しかいない。しかも、それぞれの敵が独自の目的と凶悪な計画を秘めているのに、彼らの陰謀の展開は結局同じで、1回で7、8人の子分からなる波状攻撃を、ひたすら全ての人員が尽きるまで繰り返し、最後に予測可能なボス戦に切り替えることだけである。
敵の地下アジトは、若干のアレンジを除けば、どれも“コピペ”で出来ているように見える。
おまけに、L.E.G.I.O.N.の地下アジトで過ごす時間もつまらなく、実際よりも長く感じられてしまう。若干のアレンジを除けば、どれも“コピペ”で出来ているように見える。基本的なデザインテンプレートは面白く、アートスタイルや建築様式もアメコミ的なテーマと合致するが、しばらくすると同じような金属製の廊下を走ることに飽きてしまうだろう。
とは言うものの、途切れることのないヘルメット姿のワルいヤツらと戦っている最中には楽しい瞬間もあり、刻一刻の撃ち合いもスタイリッシュで満足感をもたらすものだ。アーケードゲーム風のスピード感満点のアクションシューティングは、ゲームのコアメカニクスであるエージェント切り替えシステムと、敵を効果的に片付けるための戦術プランニングと相まって、戦闘を目まぐるしいながらも楽しいものにしている。実はただ何時間も延々と同じような悪党どもを相手にしていることも忘れてしまうほどだ。
私は最も自分のプレイスタイルに合うキャラクターたちをスタメンから下ろして、慣れないキャラクターを使うことに全く躊躇することがなかった。
メインキャンペーンをクリアして、仲間にできる全てのエージェントをアンロックするまで25時間を要したが、私が戦闘に飽きて疲れ始めたときは、すでにキャンペーンの半分をゆうに超えていた。
絶え間なくやってくるアンロック可能なスキルや装備、武器と、最も保守的で慎重な戦術家に対しても大量の選択を与える各エージェントのアビリティ、そしてそれぞれのキャラクターをどのような形で自分の“兵器”として活用できるかについて考えることも、本作の楽しさの理由だ。
強靭な元海兵のブラドック、ハイテク空賊のフォーチュン、そして荒っぽいローラーダービーの女王デイジーの3人によるチームが、自分のプレイスタイルに一番合っているとすぐに分かったが、新たに仲間に加わったエージェントのアビリティを試すという楽しみを体験するために、私はこの3人の悪女をスタメンから下ろして慣れないキャラクターを使うことに全く躊躇することがなかった。
本作の最強の要素はメインストーリーを脇に置いて、各エージェントにスポットライトを当てるSpecial Episodesだ。
しかし、本作の最強の要素はやはり、メインストーリーを脇に置いて、各エージェントにスポットライトを当てる自由選択型のコンテンツ「Special Episodes™」だ。それぞれのミッションが特に印象的というわけではないが――基本的なゲームプレイは「地味な地下アジトでワルいヤツらを撃ち殺す」に終始する――それぞれのキャラクターの特徴や性格、彼らの間の関係をもっとよく理解できるのは素晴らしい。エージェントAが別の誰かに片思いしていることや、エージェントBの90年代ラップ・ロックに対する深い愛情を見せてくれるちょっとしたディテールのおかげで、それぞれのキャラクターが肉付けされるし、プレイヤーが自分のチームにより強く感情移入することができる。
デベロッパーであるDeep Silver Volitionのいつもの奇天烈でお下品なユーモアセンスは、本作では光らず、セリフの多くがスベっているので、「Special Episodes™」のような没入感を強めるコンテンツがより一層ありがたく感じた。全体を通して、本当に笑える魅力的な瞬間もあるものの、1つの爆笑ギャグには、必ず陳腐なお決まりセリフや、ポップカルチャーシーンへの時代遅れの言及が付いている。