PS4ダウンロード専用ソフト「プロジェクト・ニンバス:CODE MIRAI」は、すでにSteamなどで配信されているタイ製ロボットアクション「Project Nimbus」のリマスター版。リマスターとは言うものの、開発エンジンがUDK(Unreal Engine 3)から Unreal Engine 4 へとアップグレードされグラフィックが強化、UI周りも一新、アクションまで追加された決定版とも言える内容となっている。
いわゆる「ロボット物」である本作。プレイヤーはあらゆる場面で既視感を覚えることになる。というのも、本作は「アーマード・コア」「エースコンバット」「ガンダム」などの様々な作品へのオマージュによって構成されているのだ。
まず世界観からして聞き慣れたフレーズが並ぶ。「核戦争により荒廃した大地」「空中に浮かぶ都市で暮らす裕福な人々」「汚染された地上で反旗を翻すテロ組織」「強大な力を持つ多国間連合」「コロニー」「軌道エレベーター」「マスドライバー」などの要素が散りばめられた世界観はロボット物好きなら容易に想像が出来るだろう。
また「バトルフレーム」と呼ばれる搭乗型ロボットのデザインは「V系統のアーマードコア」あるいは「フロントミッションのヴァンツァー」に似ているだろうか。
筆者はロボットデザインに造詣が深いわけではないが「アーマード・コア」などのメジャータイトルと比べるとディテールで劣っているのは見て取れる。しかしながら、エース機・量産機ともによく特徴が出ており、設計思想や運用方法などの背景も考慮されているため、決して薄っぺらいものではない。また開発エンジンがアップグレードされた恩恵かビジュアルとしてもギラギラとした重厚感ある仕上がりとなっているため、きっと満足できることだろう。
演出はあっさり、シチュエーションはたっぷりな「キャンペーンモード」
そんなバトルフレームが活躍するゲームモードは2つ。分岐などのないシンプルなステージクリア方式の「キャンペーンモード」と、ひたすらに敵WAVEを処理し続ける「サバイバルモード」である。
ライトな雰囲気のキャラクターデザインなどから筆者はすっかり勘違いしていたのだが、「キャンペーンモード」はひとつのアニメのように楽しむものではない。雰囲気としては「アーマード・コア」のそれだ。淡泊な演出で多くを語らない点や、ステージ前に行われるブリーフィングなどはまさにそのままである。
主要キャラに用意された萌えっぽい立ち絵はHUDに小さく表示されるだけで、紙芝居を用いたキャラの掛け合いもない。ステージ開始前のオーディオログによる会話や、戦闘中のキャラ同士の通信についても最小限。本作の主人公「イワタ・ミライ」にわざわざ用意された3Dモデルはモード選択画面でしか表示されないという徹底ぶり。よってキャラゲー要素に期待するのはやめておいたほうがいいだろう。
だからといって「キャンペーンモード」が味気ないものかと言うと、そうではない。本作のストーリーは各勢力のエースたちによるオムニバス形式で進められるのだが、複数の視点が存在する利点を最大限に活かしており、「あるコロニーで行われる主人公機の初出撃」「空中に浮かぶ巨大な牢からの脱獄」「宇宙空間で軌道エレベーター防衛」「渓谷の先にあるICBM基地の破壊工作」など、シチュエーションが非常に豊富でひとつとして同じステージがない。
また「コクピットを狙わない主義の多感な時期の少女」「どんな状況でも軽口を叩いてみせるトップガン」「赤くて速いアイツ」など、それぞれどこかで聞いた感じでキャラが立っており「エース同士の邂逅」なども描かれているので、キャラクター性が蔑ろにされているというわけでもない。
ただ、本作の「キャンペーンモード」が自由度とは無縁だというのは残念な点。ロボット物の魅力のひとつであるアセンブリや機体の強化などのカスタマイズ要素は存在しておらず、徐々に自機が強くなる喜びはない。またオムニバス形式の弊害か、所属勢力によるルート分岐などもなく、ステージごとに操作可能な機体はほぼ固定されている。一応「サバイバルモード」では機体選択が可能だが、その内容は青空と海だけの何もないマップでひたすらに敵を倒し続けるだけの味気ないもの。よって、システムとしてリプレイ性を担保するものは「イージー・ノーマル・ハード」の難易度選択のみとなっている。この点については注意が必要だ。
総評として、現在(2017年12月4日)では一章及び二章が配信されている本作であるが、二章クリアまでの三時間半は退屈することのない濃密な体験だった。クリアまでのボリュームとしては少ないように思えるが、海外のPC版では既に三章、四章が公開されているらしく、PS4移植版である本作についても鋭意制作中とのこと。現状だと「衝撃の展開、そして第一部完」といった状態で終わっている。このままでは夜も眠れないので、制作陣には無理をしない範囲でがんばっていただきたいところだ。
「分かってる」制作陣による緩急自在の超高速アクション
世界観やストーリーはさて置き、ともかく筆者が語りたいのは本作の超高速3次元アクションである。敵味方の弾丸が乱れ飛ぶ中を縦横無尽に動き回りつつ、様々な武装を叩き込んで敵を処理していくというゲームシステムは「ANUBIS ZONE OF THE ENDERS」あるいは「アナザーセンチュリーズエピソード」をよりTPSに近づけた感じだろう。
高速で飛び回りながら敵機に食らいつく様、やけに強い慣性、やたらと怖いミサイルなどは戦闘機のドッグファイトを思わせる部分もあり「エースコンバット」にも似ている。そして「4系統のアーマードコア」めいた無茶な急制動が可能なブーストも持ち合わせている。さらにそのうえで「フロントミッション エボルヴ」……はたぶん関係ないので、本作独自の要素として「バレットタイム」など多数の要素が盛りだくさんとなっている。
これほどの要素が混在して大丈夫なのかという心配する方もいるだろうが、お察しの通りいざプレイしてみるといささか大味な印象を受ける。敵は四方八方から苛烈に攻撃してくるうえ、プレイヤーと敵の距離感もかなり遠めなので、戦場のすべてを把握することはそれこそ「リンクス」でもなければ不可能である。あまりにもスピードが速いため、遮蔽物などで敵の射線を遮るといった操作は非常に困難であり、そもそも敵AIやレベルデザインもそれを考慮していない。よって、本作のプレイヤーは基本的にビュンビュン飛び回ってガンガン攻撃を仕掛けるだけである。
だがこれを転じて言えば、下手な策を弄する必要がないということ。プレイヤーは混沌とした空中でただひたすらに敵を追い、手にした武装を叩き込むという操作に没頭することが出来る。
攻撃を仕掛けるにしても、ただ適当に撃てば当たるというものではなく「マシンガン」「マルチロックミサイル」などの通常兵器から「粒子キャノン」「ファンネル」などのおなじみの装備を距離に応じて使い分ける必要があり、決して単調なものではない。
そして、そういった飛び道具のみならず「レーザーブレード」を使用した白兵戦も存在している。しかも斬りつける際のホーミングがかなり強烈であり、威力も高いので、何ならこのブレードだけでも攻略可能なほどに強力だ。おまけに「ミサイルの斬り払い」まで可能という徹底ぶり。
どう考えてもフレアやブーストを使用して回避したほうが早いので実用性は皆無だが、制作陣はもう間違いなく「分かってる」。
先に戦闘について「大味な印象」だと書いたが、これはあくまでも最初の印象。本作のアクションはシンプルでありながら、脳をフル回転させなければ追いつかないほどに苛烈なものなので誰もがそういった印象を抱くだろう。慣れないうちは余りにも目まぐるしい画面に翻弄されるのは必至だが、プレイしている内に「バレットタイム」の適切な発動タイミングがわかるようになってくる。わかってしまえば敵弾の合間をすり抜けるような繊細な動作まで可能となる。
ほぼすべてのボタンを駆使する操作体系は複雑で、プレイヤーをサポートする機能も少ないのでとっつきづらいのは確か。だがそれゆえに、まさに新兵がエースへと成長していくような実感を得られる本作のアクションは一級品だと言って良いだろう。
また気になる難易度についてだが、筆者が1周目を難易度ノーマルでプレイしたところ、大半のミッションが「もう駄目かと思いながらもギリギリでクリア」といった感じだった。次に2周目を難易度ハードでプレイしたところ「幾度か撃墜されながらも何とかクリア」といった感じだった。そして、試しに難易度イージーでプレイしてみたところ「オートロックオン」や「アーマー自然回復」などの手厚いサポートで爽快感ある戦闘が楽しめた。その後も半ば中毒状態でプレイを続けていたが、理不尽というようなステージはなかったように思う。一部の敵が固すぎるきらいはあるが手応えある程よいバランスとなっており、概ねよく調整されていると言えるだろう。
上記の通りアクションとしては文句ないのだが、プレイ中に違和感を覚えたのは「スケール感」。
上の画像は多国間連合UCNが保有する中で最大の艦「スヴェレニテット級 巡洋艦」。すでにぶつかりそうなほどに近くにいるという状況。操作中の機体は全高20mらしいので比較すると全長100m程度しかないように見える。この艦に限らず、様々な物が相対的に小さく見えて仕方がない。小さな自機と巨大な敵というのもまたロボット物の華。スケール感さえきっちりしていればもっと迫力ある絵面になると思うので、この点については惜しいところ。
ないものねだりになってしまうが、ついでにもう1点。あまりにも戦場が賑やかなので難しいとは思うが「エースコンバット」のような「リプレイ」、あるいは海外のゲームによくある「フォトモード」などの観賞用の機能が欲しかったところ。プレイ中に我ながら惚れ惚れするような動きができたりするので、その瞬間を別の視点で見たい、撮影したいという筆者のようなプレイヤーも多いのではなかろうか。