今,カードゲームジャンルが熱い。「Hearthstone」(PC / iOS / Android)や「Shadowverse」(PC / iOS / Android)といったデジタルトレーディングカードゲームが人気を集め,e-Sportsの種目として話題になることが少なくないなか,アナログのカードゲームもまた元気だ。本稿では,2016年5月に開催された「ゲームマーケット2016春」で発売されてヒットを呼び,先日,「にじよめ」でのデジタル版の制作が発表された話題作「桜降る代に決闘を」(以下,ふるよに)を紹介する。
「惨劇RoopeR」などのヒット作を次々と送りだし,同人ベースでありがならヒットメーカーとして知られるBakaFire Partyが初めて挑んだリビングカードゲーム※は,いったいどんなタイトルなのか。デジタル版の配信に先駆け,その面白さに迫っていこう。
※リビングカードゲーム……基本セットを購入するだけで遊べるデッキ構築型対戦カードゲーム。トレーディングカードゲームから“トレーディング”要素を省いたものと考えれば,そう遠くないだろう。本作の場合も,(同キャラ対戦をしない限りは)1つのパッケージで完結して遊べる。
相手の目の前でデッキを組む“眼前構築型”決闘ボードゲーム
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“眼前構築型決闘ボードゲーム”を謳い,和風テイストのキャラクター達が描かれたボックスアートが目を惹く本作。その世界観から「サムライスピリッツ」あるいは「月華の剣士」といった,和風の格闘ゲームを思い描く人も多いのではないだろうか。そのとおり,本作は数あるキャラクター(メガミ)から使用するキャラクターを選び,相手のライフを0にすることを目的に戦う対戦ゲームだ。
しかし“眼前構築型”というジャンルには聞き覚えがなく,内容がピンと来ない人もいるだろう。ここは本作の大きなウリの一つでもあるので,まずはこの“眼前構築型”とはなんぞや,というところから説明してみたい。
本作は,まず用意されたメガミタロットから2柱のメガミを選び,その力を両手に宿すところからスタートする(選択したメガミは公開情報となる)。決闘において使用できるカードはここで選んだメガミによって決まるのだが,2種類のメガミがそれぞれ持っているカード群から,好きなカードを組み合わせてカードデッキを作れるというのがこのゲームのキモである。そのため,例え同じメガミを選んだとしても,実際にどんなデッキ構成になるかは千差万別。メガミ選びとデッキの組み方で,多彩な戦術を組み立てられる。
本作のデッキは,通常カード7枚と必殺技である切札カード3枚の計10枚によって構成されるので,それぞれのメガミは固有の通常カード7枚と切札カード4枚の11枚を持っている。つまりは2柱22枚のカードから10枚のカードを選び,デッキを構築することになるのだが……ここで大事なのは,このデッキ構築はメガミを選んだ後に行うという点。お互いのカードプールが割れている状態での構築になるので,相手がデッキに組み込むだろうカードは,メガミの組み合わせからある程度予測がつく。こうしてお互いのデッキ構成を読みながら,自身のデッキを構築する。これが本作が謳う“眼前構築型”の意味であり,つまり勝負はこの時点から始まっている,というわけだ。
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例えば,相手が銃を武器とし,遠距離攻撃を得意とする「ヒミカ」を選択していて,自分が刀を武器とし,近距離に特化した「ユリナ」を選択していたとしよう。相手の銃はこちらの射程外から攻撃できるので,こちらとしてはなんとかして距離を詰めなくてはならない。となれば,間合を縮めるカードである「足捌き」はどうしても欲しくなる。
このように,相手のメガミを見て,いかにそれに対抗しうるデッキを組むかというのが,本作の醍醐味なのだ。もちろん相手側もそれは同じなので,こちらの意図を見抜いたデッキ構築をしてくるはず。また同じ対戦相手であっても,「次はどういうデッキを組もうか」と考える余地が生まれるので,何度でも遊べるというわけだ。
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ここまでの紹介だと難しそうに思えるかもしれないが,30枚以上で構成されたデッキを使う従来のトレーディングカードゲームに比べると,10枚と比較的少ないカードで攻防が展開される本作は,慣れていないプレイヤーであっても手を出しやすい。それでいて駆け引きの奥深さは損なわれておらず,これが本作が人気を呼んだ要因の一つだろう。
間合のやり取りが勝負を決める「桜花決闘」
デッキを構築し終わったら,いよいよ対戦フェイズである「桜花決闘」の始まりだ。まずは決闘に使用するボードを見ていこう。
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すでに距離の概念について軽く触れたが,本作では“間合”という攻撃が当たる範囲の駆け引きが重要になっている。プレイヤーが使用できるカードには,この間合が数値で示されており,これに合致した状況でなければカードを使用できないからだ。
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間合は初期値である10から始まり,カードを使用せずとも行える「前進」「後退」といった行動によって変化するのだが,「前進」のほうが(ゲームデザイン的に)より簡単に行えるようになっているのがミソである。
このため,意識せずとも間合は自然に詰まっていく。むしろ現在の間合いを維持する,あるいは間合を開けるには意識してリスクを取らねばならず,いかに自分が得意とする距離に相手を止めておくか,あるいは相手が得意な間合を外すかが,本作の駆け引きの中心になってくる。
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もちろん,得意間合が互いに被ることもあるわけで,自分の得意間合で強気に攻めにいったつもりが,実は相手にとっての必殺の間合だった,ということも起こりえる。それぞれのメガミの得意間合はメガミタロットの下部に記載されているので,慣れないうちはこれを意識してプレイすると分かりやすいはずだ。
ちなみに「後退」よりも「前進」が楽である理由は,基本的に「前進」がリソースを獲得する動作なのに対し,「後退」がリソースを支払う動作であるからで,こうしたリソースを管理しつつ,いかに自分の「ライフ」を守り,相手の「ライフ」を0まで詰め切るかが,常にプレイヤーの頭を悩ませる。これもまた,本作の大きな面白さと言えるだろう。
一発逆転の鍵となる「切札カード」
本作の醍醐味の一つが間合による駆け引きであるなら,もう一つの醍醐味は「切札カード」による逆転の一手だろう。切札カードは,ライフが削れることによって増えていく「フレア」を使うことで発動する,いわゆる超必殺技のこと。先に説明したとおり,切札カードはデッキ構築時に3枚が組み込まれ,手札とは別にいつでも使えるカードとして伏せ置かれる形となる。
切札カードの効果はその名の通り強烈で,この1枚で勝敗が決してしまうほど。警戒せずに攻めていると,思わぬどんでん返しを食らってしまいかねない。ただし強力なものほどコスト(消費フレア)は大きく,1試合中に使えるフレアにも限りがあるので,3枚ある切札をどうチョイスし,どう運用するかも本作のカギと言える。
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また切り札を使用するに当たっては,こちらの行動に割り込んで使用される《対応》タイプのカードにも気をつける必要がある。例えば,「トコヨ」の持つ切札の一つ「久遠ノ花」は,相手の出したあらゆるカードを,あらゆる間合で打ち消してしまう恐るべきカウンターだ。 つまり相手のメガミがトコヨなのに,安易に必殺の切札を切ってしまってしまうと,あっさり打ち消されて勝機の逃してしまうことになりかねないわけで,ここも読み合いが重要になる。通常攻撃をおとりに使って早めに「久遠ノ花」を吐かせたり,ほかの切札に「フレア」を割かせ,カウンターが打てない状態(「久遠ノ花」のコストは5だ)から勝負を決めに行くなど,戦略を練りたいところだ。
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もちろん切札にも有効な間合が存在するので,相手の切札の間合を把握しておくことも対策の一つだ。このゲームの面白さは,この「間合」と「切札」の二つの要素に凝縮されていると言って過言ではなく,いかに相手の意図を読み切り,そして詰め切るかが勝負の分かれ目となる。対戦ゲームにおいて読み合いを重視するというアナログゲーマーには,とくにオススメしたい一作だ。
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デジタル版は2018年春発売予定の「II」準拠に。現状の第二幕も継続サポート
ここまで,現在発売中の「第二幕」をベースに紹介してきたが,デザイナーであるBakaFire氏によれば,2018年の「ゲームマーケット2018春」で,本作の続編となる「桜降る代に決闘をII(仮題)」が発売予定となっている。にじよめにて同時期にサービス予定のデジタル版「ふるよに」も,この「II」準拠のルールが採用されるとのことで,今回のレビューとはまた一味違ったゲームになりそうである。詳しくは本作の公式ブログにてBakaFire氏自身が経緯を語っているのでそちらを参照してほしいが,今後の拡張性を担保するためのルール刷新とのことである。
とはいえ,現行の「第二幕」も魅力的であることに違いはなく,「II」と並行して販売は続くとのこと。また12月に予定されている「ゲームマーケット2017秋」では,「第二幕」最後の拡張セットも発売となる。この記事を見て興味を持った人は,ぜひアナログ版でも遊んでみてほしい。そして来たる「II」,またデジタル版でスタートダッシュを決めるのも,悪くないのではないだろうか。