ファンタジーというジャンルは、冒険の舞台である幻想世界そのものが物語の中心になっている作品が多いが、RPGとなると登場人物のストーリーを中心に描かれる作品も少なくない。どうしてもどちらか一方に偏りがちだが、理想は世界も人間ドラマも魅力的な作品だ。そして、その理想を体現できていることが「LOST SPHEAR」の一番の快挙だ。
「LOST SPHEAR」は常にその世界設定が中心にあるゲームだ。世界は星の記憶でできており、記憶が失われてロストしている(消えている)場所・人物・概念がある。主人公であるカナタという少年には、ロストしたものを再生する不思議な力がある。ストーリーはもちろん、このコンセプトはゲームプレイにもグラフィックにも、それからワールドマップのデザインにも生きている。ひとつのコンセプトがゲームの全体に広がって繋がるのは非常に気持ちがよく、「LOST SPHEAR」は筆者が思っていたよりもずっと優秀なRPGだった。
「LOST SPHEAR」は常にその世界設定が中心にあるゲームだ。
カナタとその仲間はロストしたものを取り戻す旅に出る。なぜこんなにもたくさんの記憶が失われているのか、世界にはどのような歴史があるのか、などといった事柄は物語を進めていくと自然に見えてくる。本棚を調べたり、NPCに話しかけたりなど、任意の探索で見えてくるのではなく、本編で丁寧に描かれるということだ。世界の謎を追う過程で語られるパーティメンバーや敵対する存在と発生する人間ドラマも中々の見ものだ。敵が仲間になったり、親友が裏切ったりするといった急展開は豊富で、パーティメンバーの離脱と加入を通して描写される。「ドラゴンクエスト」シリーズと似た会話システムもあるので、冒険の途中で頻繁に友の声を聞くとその個性がより一層見えてくる。シナリオ上、2人だけになるようなときなどはまた違った一面を見せてくれるので、中々に味わい深い。
上のような人間描写は革新的なアプローチではないのかもしれないが、古くからJRPGを好んでいるプレイヤーにとってはやはり心地のよいものだ。だが、問題はそういう僕らも大人になってしまったことで、「LOST SPHEAR」の台本が僕らの精神的成長に追いついていない点だ。ずっと「そのうち裏切る」とみえみえだったキャラクターがついにその行為に及ぶと、仲間キャラクターの驚きと動揺にはうんざりする。「LOST SPHEAR」のようなノスタルジックテイストのRPGをプレイする人の大半はもう子供ではないので、シナリオに関してはもう少し工夫してほしいところだ。
殺されかけても「原因は僕にある」
主人公のカナタもあまりにもいいやつすぎる。殺されかけても「原因は僕にある」となり、恨みのような感情はそもそもないらしい。JRPGの主人公は透き通った心の持ち主でなければならないのかもしれないが、それもJRPGが子供向けに作られていた時代の名残でしかないと思う。筆者は何も悪党を求めているわけではないけれど、もう少し人間味なり個性なりがほしい。
それは「LOST SPHEAR」のビジュアル面の大半に関しても言えることだ。キャラクターの描き下ろしのイラストは実に魅力的だが、ゲーム内のキャラクターデザインはそのエッセンスをつかめていない。シンプルな作りの3Dグラフィックによる街やフィールドは一部の例外を除いて3人称視点から見せられるが、これならドット絵にしてほしかったと強く思う。だが、訪れる地形は個性豊かだし、少し寄った視点になる絶景スポットもある。特に月の描写は美しい。
ロストしているものは白い霧に包まれ、これを眺めていると夜の海を見たときのように儚い気持ちになる。カナタが記憶を再生すると白い霧はキラキラと青く輝いては消えていくのだが、その際に使われるエフェクトは何度見ても不思議な感覚に包まれる。
戦闘システムは「いけにえと雪のセツナ」から引き継がれた「刹那システム」でタイミングよくボタンを押すと追加ダメージを与えられるのに加え、本作では戦闘中に移動することで攻撃の範囲を広げたり、敵の攻撃をかわしたりすることができる。多くの場合、ターン制バトルはザコ戦で「攻撃を連打して終わり」となりがちだが、「LOST SPHEAR」はこの2つの仕様のおかげで常にある程度の戦略性を保っている。シンボルエンカウント方式を採用しているので、敵は実際にフィールドに出現して、接近すると戦闘がシームレスに発生する。敵はグループになっていることが多く、戦闘が発生するのは接触してからではなく、少し近づいただけで戦うことになるので避けることは難しい。
筆者は基本的に逃げずに戦ったが、それ以外は特に経験値を稼ぐようなことはしなかった。その状況で「LOST SPHEAR」のボス戦に挑むと、あともう1ターン続いていれば全滅していたというようなことも珍しくなく、絶妙なバランスだったと言える。
あともう1ターン続いていれば全滅していたことも珍しくなく、絶妙なバランスだった
もちろん、RPGが常にそうであるように、「LOST SPHEAR」の難しさもプレイヤーがどれくらいキャラクター育成に励むかによって大きく異なる。経験値や武器に防具の調達はもちろん、「LOST SPHEAR」では法石という記憶と粒子からできた石を使ってパーティメンバーの「スキル」をカスタマイズできる。3種類の法石があって、これらをキャラクターに装備させたり組み合わせたりすることで、通常のRPGに相当する「魔法」や「特殊攻撃」が繰り出せるようになる。これを怠ってしまうと、キャラクターは攻撃とアイテムの使用しかできなくなってしまうので、常に新しい法石を求めることになる。この仕様によって、ある程度キャラクターを自分の好みに合わせてチューニングすることはできるが、装備できる法石はキャラクターごとにあらかじめ設定されているので、彼らが担うことになる役割は基本的に固定している。それなので、カスタマイズに対する満足はそれほど高いものではなく、順路に沿って行っている感覚は否めない。
古の機械文明が残したロボット「機装」は良い具合に「LOST SPHEAR」のゲームプレイに新鮮なスパイスを加えている。搭乗すると通常では破壊できない障害物を打ち破って進んだり、「ブースト」というコマンドで戦闘を避けたりできるので、フィールドを探索するときも役に立つ。だが、機装の主な役目はバトルのときに発生する。キャラクターは戦闘中でも搭乗・降機でき、乗っている間は性能が大幅に上がるだけでなく、強力な特殊攻撃も繰り出せる。機装を動かすためにはENゲージというものが消費され、これはパーティ共通だ。ENゲージは宿屋で休むと回復する。そう、機械も夜になると眠るらしい。
機械の存在や石を使って「スキル」を身につけるシステムは思ってみれば「ファイナルファンタジーVI」と共通している。もちろん、バトルシステムは「クロノ・トリガー」と類似性が高いし、さらにいえばビジュアル面では「いけにえと雪のセツナ」と酷似している。これだけのバックボーンに頼っていると確実に既視感が生まれるはずだが、独創的な世界設定のおかげでは概ねに新鮮な気持ちでプレイすることができたことはちょっとした驚きだ。
「夜」を取り戻す旅に出たのは初めてだった。
それだけ魅力的な部分がこのゲームにはあるということだ。例えば「夜」の概念がロストしている場面がある。筆者はたくさんのRPGをプレイしているけれど、「夜」を取り戻す旅に出たのは初めてだった。そして、古き良きJRPGの魅力はまさにこういったロマンチックな設定なのだと思い出した。残念なのは、こういった設定の裏付けが少々甘いことだ。「夜」を取り戻して、戻ると街頭が夜の路地を照らし、家の中からも煌々と光が灯っている。「どこからそんな大量の電球を集めてきたんだ!?」ともちろん思うが、筆者もファンタジー作品に対してそこまで細かいところを突くほどひねくれてはいない。だが、NPCたちまでが少し前まではなくなっていた「夜」について一言も言わないとなるとさすがに寂しい。素敵なエピソードであるだけに、最後のツメが甘いのは実にもったいない。
ツメの甘さはゲームプレイにも現れている。カナタが記憶を集めることでロストしてしまった場所や人を再生するというアイディアは評価に値するが、そのゲームプレイはあまりにも薄っぺらすぎる。記憶はモンスターを倒すことで入手したり、フィールドに落ちていたりする他、NPCのセリフや文章から吸収することができる。後者はかなり高いポテンシャルを潜めた収集方法だが、十分に活かされていない。カナタは決まった人物・書物からそれを単純に吸収するだけで、他の「お使い」ミッションとさして変わらない。特定の質問をすることでNPCから記憶を引き出したり、書物のどのあたりがロストしているものと関連しているかを自分で考えたりする仕組みになっていれば、もっと「ゲームしている」感覚になっていたはずだ。
2017年のゲーム・オブ・ザ・イヤーに「ワールドマップ賞」があれば、僕はたぶん「LOST SPHEAR」に一票を入れる
2017年のゲーム・オブ・ザ・イヤーに「ワールドマップ賞」があれば、僕はたぶん「LOST SPHEAR」に一票を入れると思う。カラフルでわかりやすいレイアウトがロストしている白い霧とひとつになって唯一無二の美しさを作り出しているということもあるが、機能面でもユニークだ。
途中で船や飛空艇を入手してすみやかに移動できるようになるあたりは従来のJRPGに沿った形ではあるが、通常のワールドマップが場所と場所をつなぐだけのためにあるのに対して、「LOST SPHEAR」のワールドマップには様々な機能が備わっている。物語上、ロストしているものがあるだけでなく、ワールドマップには他にも白い霧となった場所が点在している。プレイヤーはこれらを発見すると好きなように再生して「アーティファクト」と呼ばれる建造物を出現させることができる。アーティファクトは様々な形でプレイヤーの手助けをするようになり、拾えるアイテムの個数が増えるもの、経験値がアップするもの、セーフポイントで自動的に回復できるようになるものなどがあり、世界全体に影響するものもあれば、作成地方のみに影響するものもある。再生したアーティファクトとそれらがワールドマップのどこに位置するかによって、冒険の流れが大きく変わる。これほどゲームの全体に影響するワールドマップは斬新だ。
「LOST SPHEAR」のメインストーリーをクリアするのに約30時間がかかった。RPGとして長い部類に入るわけではないとはいえ、少々長すぎると感じた。魅力的な世界設定も、後半からはありきたりの勧善懲悪の戦いで台無しにされてしまったからだ。筆者と同じく本編は後味が悪いと感じた人はクリア後のシナリオをスキップした方がよさそうだ。なぜなら、ここで「LOST SPHEAR」が30時間もかけて作り上げた世界の掟が破られてしまうと言っても過言ではないからで、そこで描かれる出来事には無理があり、説得力がないからだ。
最後は辛辣な意見になってしまったけれど、逆に言えば筆者はそれだけ「LOST SPHEAR」の基本となるコンセプトにポテンシャルを感じているということだ。いろいろな欠点を抱えていても「LOST SPHEAR」は古き良きJRPGの記憶を再生すると同時にプレイヤーを新鮮な気持ちにさせてくれる作品だった。