そう、編集部に呼ばれた私は耳を疑った。レビューにガッツを求められたのは初めてだ。なにやら“いわくつき”の難しさらしい。いったい、どんなヤバいゲームなのか。不安を抱きつつインストールを終えた私は、景気づけに瓶ビールを1本ひっかけて(これはゲームの難しさを調べる手法なんだ。信じてほしい)プレイを始めた。
そしてすぐに死んだ。何度も死んだ!そしてすぐに死んだ。何度も死んだ!
なんだ、このゲーム。とんでもなく難しいんですけど!?
最初のアクション面をクリアするまでにカップヘッドは6回も死んだ。もし死ぬたびに家のマグカップをひとつ失っていたなら、今頃、私はコーヒーを飯椀で飲むことになっていただろう。
そしてすぐに死んだ。何度も死んだ!
既に本作をプレイしたゲーマーは、私と同じ体験を味わっているはずだ。最初のボスバトル面でノックアウトのゴング音が鳴り響いたときの、あの安堵感ときたら! なにせ、御対面してからカップヘッドは13回も叩き割られていたのだから。
死んでから1秒でリトライを繰り返し、アクション面のステージ構成やボスバトル面の攻撃パターンを学んでいく。不思議とそこに不快感はなく、むしろ楽しめているのは驚きだ。目に入るものすべてに心を奪われていた。
インクウェル島の愛らしい住人たち。彼らの感情豊かなアクション。味わい深く、あたたかい水彩画の背景。まるで昔のカートゥーン映画を見ているようだ。ジャズとアカペラのBGMは素敵でおしゃれで心が躍り、どのシーンもマッチしている。ワールド1を制覇した1時間で、私はすっかり「Cuphead」のとりこになっていた。
オールド・カートゥーンと「魂斗羅」の融合
あらためて、「Cuphead」が集めている注目を見てみよう。振り返るに、2013年公開のトレイラーから心待ちにしていた者は多いだろう。2015年からはE3でマイクロソフトのキラータイトルとして告知され続け、期待は年々高まった。おっと、「度重なる発売延期の裏返しだ」と茶化す前に、下のローンチトレイラーを目にしていただきたい。
本作にはふたつの見どころがある。まずひとつは1930年代のカートゥーン映画の再現だ。これはスクリーンショットを眺めるよりも、動いている絵を目にしたほうがよい。オールド・カートゥーンを模した、というよりそのままのヴィジュアル。フィルム汚れエフェクト。当時最先端であったジャズのBGM。まるで、埋蔵フィルムが発見されたかのようだ。絵づくりについてはUnity公式ブログに開発者インタビューがあるので、詳細はそちらを読まれたし。
もうひとつの見どころは「ランアンドガン」へのコダワリである。日本語に意訳すると「魂斗羅」ライクだ。全方位から迫りくる敵を撃ちまくり、足場から足場へ飛び移り、ステージを踏破し強大なボスを撃破する、サイドビューアクション。ハードコアの極北として名高いオールドスクールの金字塔を、ボスバトルに注力し過去の名作から学ぶことで現代に復刻した。
いくら言葉を並べても画面の雄弁さにはかなわない
いくら言葉を並べても画面の雄弁さにはかなわない。まったく、レビュア泣かせもいいところである。カートゥーンらしく身体全体で感情を表現しつつ、エグい攻撃をしかけてくるボス。そして、宙返りしながら弾を撃つ「魂斗羅ジャンプ」。目にしたそれらが君の琴線に触れたなら、今回は手放しで信じてもらって構わない。そこから先はなにをいっても、君の貴重なCuphead体験を損なうだけである。さあ、はやく買った買った!
ゲームのかたちをしたカートゥーン映画
物語の主人公ことカップヘッド(赤)とマグマン(青)。彼ら兄弟はキング・ダイスにカジノで担がれ、こともあろうにザ・デビルと魂を賭けたギャンブルに興じてしまう。案の定、兄弟は負けてしまい「命が惜しくば、債務を踏み倒した者たちから魂を取り立ててこい」と脅されてしまうのだ。
債務者とはこれからアクションバトル、シューティングバトルを挑むボスたちのことである。全4ワールド構成で、各ワールドはアクション面、ミニゲーム、ショップ付きのマップになっている。マップに点在するボスバトル面をすべて制覇し、出口にたどり着けばワールドクリア。全ワールド制覇でゲームクリアとなる。もう一度言おう。本作の目的はすべてのボスを倒すことである。
ここで、冒頭のとおり筆者が瓶ビールを1本空けてからプレイした理由を説明しよう(そうしないと怒られるからね)。これはアクションゲームの攻略に欠かせない、反応速度と操作精度を常人レベルにまで下げるためだ。調査の結果、ほろ酔いでも素面でも、ボス撃破に要する時間は変わらなかった。ゲーミングフィジカルに左右されない難しさなのである。
「Cuphead」の難しさの正体とは、知らなければ必ずダメージを受けてしまう「初見殺し」のフルコースだった。ようし、手のうちはわかった。早速、再戦といこう。今度は被弾を抑えつつボスにダメージを与えていけるだろう。するとボスは怒りをあらわにしつつ姿を変え、新たな攻撃パターンでカップヘッドの命を刈り取っていく。
こうしてプレイヤーとボスの根比べが始まり、最後まで諦めなければ君が勝つ。つまるところ、初見殺しにひと通りつきあうゲームなのだ。ボスの攻撃を避け続けねばならず、必然的に、攻撃モーションを注目することになる。本作はここにカートゥーンならではの表現を用いて、ビックリ、ドッキリ、愉快で笑える舞台に仕立て上げた。
初見殺しの不快感はカートゥーンの期待へと手品のようにすり替わる
攻撃予告モーションへの警戒が、アニメーションへの注目と一致するとき。初見殺しの不快感はカートゥーンの期待へと手品のようにすり替わる。ボスバトルを楽しむと同時にカートゥーンを堪能する。または、カートゥーンが好きでボスバトルに付き合える。どちらが主で従になろうが構わない。大事なのは、アクションゲームとカートゥーン映画が同時に楽しめるところにある。
ゆえに本稿は、ゲーム中で披露される数々のマジックを守るため、スクリーンショットは1枚をのぞきワールド2前半までのものとした。もし君が、新作ディズニー映画を楽しみにしているときにネタバレされたらイヤだろう? 上映初日の朝一番に「まさかカイロ・レンのお父さんが○○○○だったなんて」と聞いてしまえば、誰だってフォースの暗黒面に堕ちてしまう。
こうしたスポイラー問題は映画だけに限らない。「スター・ウォーズ」エピソード7監督、J・J・エイブラムスがWIRED誌インタビューで明かした「スーパーマリオUSA」の苦いエピソードが、まさにそれだ。本作で得られる体験とは、ボス攻略のプロセスを通じてアニメーションを堪能するカートゥーン映画なのである。
難しさと釣合いを取る「クリアしやすさ」
「Cuphead」はオールドスクールなアクションゲームだ。プレイヤーがジャンル初心者でも特例待遇はなく、ボスはお得意の殺人フルコースを振る舞ってくれる。心憎いことに、運のよさで突破できる場面はほとんどない。死んで覚えて、また死んで、クリアするまで繰り返す。
プレイヤーが自身の学習と成長を信じられないというなら、攻略の見通しがたたない点に強いストレスを感じるだろう。そこは安心してほしい。ボスバトルに負けても、どれだけゴールに近づけたのか教えてくれるし、すぐにリトライできる。やる気をかき立てる、ボスの憎たらしいセリフつきだ。
こうした、リトライ時の復帰点「チェックポイント」は高難度ゲームに欠かせない要素である。だからといってチェックポイントを濫造すれば、過保護となってプレイヤーのやりごたえを損ねてしまう。そこで本作は「魂斗羅」のステージ構成を、ボスバトル面とアクション面のふたつに分解し、「スーパーマリオワールド」のようにマップ各地へ配置した。
ワールドを高難度ゲームの遊園地にすることで、ボスバトル面・アクション面を短く区切り、アクション中にチェックポイントつくる過保護を避けている。さらに、休憩ベンチにおあつらえ向きのビューポイントをつくり、さらには完全制覇へのモチベーションまで生みだした。
ボスバトル面とアクション面の配分にもひねりを加えている。ボスバトル面は攻撃パターンを覚えるゲームだが、アクション面は火の輪くぐりのようにゲームパッドさばきを競うもので、難しさのタイプが違う。本作はアクション面の数を減らし、かつ、プレイ任意のボーナスステージ扱いにすることで、ひとまずのゲームクリアに精密操作を求めないようにした。
最新ゲームならではの工夫が施された、クリアしやすい高難度ゲーム
「魂斗羅」ライクのアクションゲームだと紹介したが、伝統的なステージ構成を廃し、ボスバトル面をメインコンテンツにするなど、割り切った調整を入れてある。だから過去の「名作」を知らないプレイヤーも安心してほしい。最新ゲームならではの工夫が施された、クリアしやすい高難度ゲームを遊べるのだから。ああ、なんと羨ましい話であろうか。
レビュア泣かせの高難度・高品質
「Cuphead」はレビューに気合いを要するゲームだ。難しさもあるが、それ以上に、口を挟むのが野暮なほど品質が高い。オールド・カートゥーンの愛好家や、クラシカルなアクションゲームのファンたちに、マスターピースとして愛され続けることになろう。
画面のいたるところにある偉大な名作へのオマージュにも触れたいが、ここでは伏せておく。君自身で見つけて、楽しんでもらいたい。“Cuphead”でGooglingすれば専門家の解答がすぐに見つかるので、答え合わせは各位でやってほしい。それに、筆者はゲームオタクなので、そういうのを語り出すと長くなってしまうからね。
本稿がインプレッション(所感)であるなら、ここで話を終えていた。しかしレビュー(批評)となれば精査を要する。視覚情報とゲーム難度のミスマッチ。アクション面のステージ構成。ボスバトル面の攻略手段。この3項について一言述べねばならない。
アートワークと視認性がトレードオフの関係に陥ってしまい、ボスと攻撃と足場の区別に苦労する。ボスは触れるとダメージを受けるときと、そうでないときがあり、実際に触って調べるしかない。ライフ制が不快感を緩和しているとはいえ、アートワークに足を引っ張られた印象が残る。
アクション面はジャンル過去作のステージ構成を一通り備えている。しかし、本作ならではという新しいものはなく、メインコンテンツであるボスバトル面とくらべて見劣りする。とはいえ、品質の高さは折り紙付きで不満はない。あえていうなら、アクション面にストーリーの進展がないことぐらいだ。名作ランアンドガン「ミスティックウォリアーズ」のような、ジェットコースター的エンターテインメントとは無縁である。
本作最大の論点は、上の画像のような初見殺しをすべて踏む以外にボス攻略の手段がない点である。カートゥーン演出の見せどころだが、死んで覚えての繰り返しに心のゆとりを失ってしまうと苦痛を覚えるだろう。ボスバトル序盤の被弾で即リトライし始めると、作業感はさらに増す。悪魔と魂を賭けるわりには、命の安さが目立ち始める。ここはアクション映画につきものの、NGシーンだと思って楽しんでほしい。
最後に。どうしてもクリアできないときは2人プレイで挑むことを勧める。こちらの火力も増えた分、ボスのライフは大幅に増加するが、死んでしまっても相方にレスキューしてもらえるのでかなり楽になる。レスキューの回数制限を廃し、生き残った相方をチェックポイントの代用にしたのは、過去のランアンドガンにない本作ならではの要素だ。死ぬときは2人同時になることが多く、パーティプレイの盛り上がりもよい。子供同士でも、親子でも、2人で遊べるゆえに本作の対象年齢は「3歳以上」なのである。