マハーラージャ・ハシラマが生贄にささげた子供は、憤怒のラクシャーサ、アシュラとしてよみがえった。5つのダンジョンを踏破し復讐の刃を突き立てろ! 「Asura」はインド神話をモチーフにしたアートワークで描く、トップビュー・バトルアクションのハックアンドスラッシュ(以下、ハクスラ)である。
9月27日の無料アップデート「Vengeance Expantion」では日本語対応に加え、ゲーム内容が大幅に改良された。ゲーム性にそった新スコアシステム。新たなボス、武器・防具・アイテム、アリーナや賭博場といった部屋。そしてエンドレスモードとさらなる高難度モード。これらがハクスラモンスターの君を待つ。
本作最大の焦点は、ゲーム全体を、そしてアシュラの復讐を支配するランダム性である。舞台のマップは自動生成。ステージボスが誰なのか、ボス部屋に入るまでわからない。ハクスラの定番、ドロップ品も当然運次第だ。さらにはスキルツリーまでランダムで、キャラクター育成は暗中模索のまま進む。
この無責任なランダム性が「幸運を願う」ゲームプレイを生み出し、過去作に類のないドロップ効率が「願いをかなえるチャンス」をもたらした。本作の魔性めいたリプレイアビリティの正体は「射幸心」である。嫌味なくゲームシステムに組み込まれているゆえ、ゲーマーである限り「Asura」の誘惑にあらがうことは不可能だ。
ローグライクの亜種、ワンタイム・ハクスラ
冒頭で特筆した強烈なランダム性をのぞけば、「Asura」は基本に忠実なハクスラだ。戦闘を繰り返して経験値と略奪品で主人公アシュラを強化し、ダンジョンを踏破する。マップは部屋と通路でできており、部屋に足を踏み入れると敵をすべて倒すまで出られない。マップ中のどこかにいるボスを倒してゴールすればステージクリア。全5ステージでゲームクリアとなる。
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ゲームパッドでのプレイを推奨する操作系は、明快にまとまっておりストレスを感じない。テンポよい乱戦バトルを心ゆくまで楽しめる。戦闘システムは回避と攻撃のみ。敵の攻撃をかわしながらこちらの攻撃を当てていこう。移動とダッシュで位置取りし、近接・射撃武器・コンバットスキルを駆使するのだ。前転回避は飛び道具をすり抜け、ダッシュより速く移動できるので、敵に囲まれそうなときは距離を取って仕切り直せばよい。
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ジャンルでおなじみの仕様となった自動生成ダンジョン。ステージボスは数種類のうちからランダムで登場する。装備品・アイテムは合計100種類を越え、そのほとんどがドロップ運次第。マップもボスも装備品もランダムの本作に、同じ攻略手段は二度と通じないのである。なぜなら、アシュラの復讐は一度始まってしまうと、成し遂げるか、志半ばに死ぬかで幕を閉じるからだ。そしてふたたび復讐に挑むとき、ゲームは新たにランダム生成され初期状態からリスタートになる。
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本作はハクスラアクションの代表作「Diablo」のように、ホームタウンとダンジョンを何度も往復するダンジョンクロールではない。「Risk of Rain」のように、ゲームスタートからエンディングまでノンストップで駆け抜けるワンタイム制ハクスラだ。ライフ回復はドロップ品にかかっており、ドロップする敵の数は有限となるゆえ、ライフ回復の機会は有限となる。やり直しがきかないローグライク要素がここにあり、ゲームクリアにはプレイヤーの腕前だけでなく、ドロップの「幸運」も求められるのである。
魂を喰らって血肉にするか、死体をあさり装備をさらうか
本作の特徴はドロップの機会が他作品と比べ非常に多い点にある。部屋内の敵を一掃すれば待望のボーナスタイムだ。プレイヤーは敵の死体に「吸収」か「略奪」のどちらかを選べる。「吸収」は魂を喰らい経験点を得て、レベルアップでアシュラを強化できる。しかしドロップはなしだ。「略奪」ならその逆で、敵の死体を裂いてドロップ品を出し、おカネ、肉や弓矢、運がよければ武器や防具を手にいれる。だが経験点は得られない。
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吸収か略奪か。経験点かドロップか。これは悩ましい選択である。レベルアップも、装備も、弓矢の補充も肉の確保も、すべて重要だというのにどちらかしか選べない。プレイヤーは心の底から幸運を願わねばならないのだ。ハクスラで味わうキャラクター育成の壁と、ローグライクのようなギリギリのサバイバルを、幸運が同時に解決するかもしれない。死体の山を見た君は、射幸心という悪魔の誘惑に屈するだろう。
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本作はそうした射幸心に駆り立てられたプレイを推奨している。なぜならゲームがとても難しいからだ。ステージ2までは順調に進むだろうが、ステージ3以降はマップサイズが広がるとともに、部屋で待ち構える敵はバリエーションが増え、硬くなり、遠近ともにアシュラを包囲しはじめる。キャラクター育成の手際を選別する強烈な難度が、幸運をゲーム攻略に不可欠な要素としているからこそ、射幸心に我が身を焦がしながらプレイできるのである。
レアリティは君が決めろ
さて、勘のよいゲーマーなら気づいているだろう。吸収の経験点は、運に左右される略奪と比べ、着実にキャラクターを育成できる。レベルアップならハズレを引くことはないはずだ。そう筆者も思っていた。しかし、本作最大の射幸心はレベルアップに仕掛けられていた。なんと、レベルアップでアンロックできるスキルツリーも、プレイごとにランダムなのである。これは「レベルアップすればスキルをドロップする」と言い換えてもいい。
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当然、装備とスキルはシナジーを発揮する。ダメージは低いが3本打てる弓に、攻撃ヒットで竜巻や落雷を誘発するスキルを付ければ、火力も画面もにぎやかなことになるだろう。攻撃ごとに毒を誘発する武器と、毒ダメージ強化のスキルやアイテムを持たせ、ヒットアンドアウェイでなぶり殺しにしてもよい。ライフが減るほど攻撃力が上がるスキルと、最大ライフを伸ばす防具、そしてバリアを張るスキルが組み合わされば、手負いの攻撃力ボーナスを得たまま安全に戦えてしまうのである。
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そして、本作にはランダムで入手できるものに「レジェンダリー」や「エピック」といったレアリティがない。他作品ではゲームクリア後の周回プレイで手に入るエンドコンテンツ級の戦闘力が、君が十分に幸運なら早い段階で手にできてしまうのだ。装備やスキルを大量に用意することで幸運が巡り会う度合いを減らし、バランス調整していないように調整してあるのが面白い。
「Asura」の画期的な点はスキルツリーのランダム性と吸収・略奪システムにある。ハクスラの醍醐味であるキャラクター育成=攻略を、プレイするたびに考案できるのでまったく飽きがこない。祈り力を高めてドロップを願うだけでなく、スキルツリーを活かせばドロップのアタリ枠を力ずくで広げることだってできる。運命をあざ笑う愉悦を是非味わって欲しい。
ランダムという魔物を飼い慣らす
マップもボスもドロップもスキルツリーも毎回ランダム。プレイごとにまったくちがった展開になる。しかし、展開のパターンが無数にあるからといって「もう一度プレイしたい」と思えるかは別問題だ。例えば吸収と略奪だが、これ単品ではただのクジ引きでしかない。スキルツリーが合わさることでランダムを飼い慣らす「ゲーム」になる。アシュラを復讐の悪魔から射幸心の鬼へと変貌させる魔法は、先の例だけでなくほかにもいろいろとある。
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まずは「Asura」の大胆な演出配分だ。物語やバックボーンの見せどころを、オープニングとエンディングのスライドショーに集約した。操作できないシーンをハクスラの不純物と切り捨て、プレイヤーの思考を戦闘とキャラクター育成だけで埋め尽くす。物語については復讐が済んでから考えればよい、といわんがばかりのスパルタンな仕様だ。ハクスラモンスターが求めているものを理解したつくりといえよう。
吸収と略奪のハズレにもひねりを加えてある。吸収で経験点を得たレベルアップは、スキルツリー順にアンロックしなくてもよい。欲しいスキルだけ取れるので不運な構成に付き合わずに済む。略奪のドロップはハズレでもおカネは手に入り、使い道は命にかかわるものが多く軽視できない。ショップで買える水がめは防具を破壊する炎上を防ぎ、カギは宝箱部屋の扉を開く。また、装備をランダムで引く鍛冶屋、ベース能力を上げる鉄床もおカネの使いどころだ。
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これは大事なことだが、本作はアクションゲームである。リトライを通じてプレイングが上達する、プレイヤー自身の成長がある。敵の攻撃パターンと対処、危機の察知、アイテムへの知識、スキルと装備のシナジー、などなど。アシュラが死んでもプレイヤーが生きていれば、次のゲームで経験を活かせるはずだ。そして、ゲームクリアするごとに高難度がアンロックされ、プレイヤーの成長にあわせて「Asura」は荒々しい本性をあらわにしていくのである。
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難度ノーマルではスキルツリーがすべて公開してあり、ゲーム開始時にボーナス能力「チャクラ」を選択できる(上画像の左側リスト)。これは始めたばかりのプレイヤーに大きな助けとなる。しかし難度ハード以降はスキルツリーが非公開になり、難度ベリーハードではチャクラの使用も禁じられる。純度100%のランダムと向き合う頃には、幸運の活かし方だけでなく、不運に対処して生き延びる方法も熟知しているだろう。「Asura」は、幸運を積み上げてキャラクター育成するハクスラと、不運に対処するローグライクを融合したゲームなのだ。
コントローラーにあたりたい不快感
「死んでもコントローラーにあたるな!」とロード中のヒントに書いてあるのは笑いを誘うが、残念なことに不運以外で不快な点がいくつかある。武器とスキルのアンバランス。演出面の不足。ローカライズの品質。これらの点で練磨が不足しており、一級品のゲームと呼ぶには三歩ほど届いていない。
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攻撃時にスタミナ消費が大きいハンマーは攻撃力こそ分相応だが、スキルの攻撃力強化が割合ではなく固定値のため、結局は回転の速い武器が強い。特にスタミナ消費がない弓は連射が効き過ぎるためボスを瞬殺できてしまう。また、防具を壊す炎上状態を回復する消耗品「水がめ」が何度も使えるバグがある。一部のスキルは恩恵を得にくく選ぶ価値がない。ボス戦中のみ最大ライフを増やすスキルが現在ライフを増やさない、といった具合だ。スキルの説明文も呪文、魔法、と一部の単語が混同を招いている。
また「ハクスラに純化した」と割り切っても演出面は淡泊すぎる。はだかる門番を鏖殺していく主人公アシュラの憎しみが、プレイを通じてビジュアルで伝わってこないのだ。部屋の最後の敵を倒すときにカメラワークがあれば、印象はちがったものになったであろう。この点は、オープニングで4分にわたるスライドショーを見せる以外にも工夫がほしかった。また、インド神話をモチーフとしたアートワークは、インド人開発者2人で制作しており地で行くものだろうが、敵が人型のみというのは変わり映えがない。
ローカライズは及第点だが細部に不満がある。ゲーム中のメッセージ文では「○○ダメージダメージを与えた」といった、通してプレイしたなら見つかるハズのミスが目立つ。またスキル説明のいくつかは、英文には書いてある効果時間が日本語にはないというチェック漏れもある。本作が難しすぎたからか、ローカライズ担当はゲームをクリアしていないようだ。エンディングの字幕でバグを目にしたとき、筆者は主人公アシュラのように憤怒の形相をうかべていた。
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