以下に「ゲーム・オブ・スローンズ」シーズン7第6話「壁の向こう」のネタバレが含まれる。


「ゲーム・オブ・スローンズ」は、シーズンフィナーレの一つ前のエピソードに最もスケールが大きく、衝撃的なエピソードを持ってくる傾向にある。「ベイラー大聖堂」「キャスタミアの雨」などが好例だが、シリーズ史上最も大きな死が描かれた「壁の向こう」もある意味、その点では遜色がなかった。

しかしながら、「壁の向こう」は展開を急ぎ、物語を切り詰めたシーズン7において、その悪影響が最も顕著に現れたエピソードでもあった。素晴らしいアクションシーンと、俳優陣の堅実な演技にもかかわらず、本エピソードでは息を着く間や、背景を理解する時間が与えられぬまま、次から次へと物語が進んでいった。その速さときたら、死んだのがどのドラゴンだったのかも明白にする時間もなかったくらいだ(ネタバレ:死んだのはヴィセリオンだった)

 

ドラゴンの死はシリーズ史上最も大きなインパクトをもつ瞬間の一つであり、自身が無敵であるかのように振る舞ってきたドラゴンの女王にとっては良い警鐘になるではないだろうか。彼女の〈手〉であるティリオンはデナーリスの行き過ぎた自信をずっと批判してきた。後継者の問題を持ち出すことに関しては、もう少し巧妙なやり方を選ぶべきだったが、「壁の向こう」ではティリオンの提案が全く意味のないものではなかったことが証明された。

2話前のサーセイ・ラニスターはドラゴンを殺す手段を持っていなかったが、どうやら〈夜の王〉はスコーピオンよりも威力がある槍を隠し持っていたようだ(そして、命中率もブロンより若干高い)。ヴィセリオンを失うだけでも大打撃だが、〈夜の王〉の手でドラゴンが蘇り、〈亡者〉や巨人、クマの軍団に加わるというのは、これ以上ないほどの脅威だ。ウェスタロスに〈亡者〉の軍団を連れてくるという意味では役に立たないが、彼はデナーリスのように〈壁〉を飛び越えることもできるようになったわけだ。

大きな喪失があった一方で、ジョンと仲間達は少なくともサーセイを説得するために使う〈亡者〉は手に入れた。さらに重要なことに、デナーリスは〈死の軍団〉を目にし、〈夜の王〉が真の敵であることを理解した。我々はデナーリスが本当の意味で恐怖する姿をしばらく目にしていないが、〈夜の王〉の脅威はそれに値するものだ。「壁の向こう」では〈亡者〉の軍団を倒す方法のヒントも登場した。どうやらホワイトウォーカーを全て殺せば、残りの亡者(もしくはその大部分)も殺すことができるようだ。

これらの出来事は1シーズンをかけて描くにしても大きな動きであり、1つのエピソードに詰め込むのは相当無理がある。デナーリスと〈夜の王〉が対面したことには興奮したが、私は本エピソードの鞭打つようなペースにフラストレーションを覚えずにはいられなかった(少なくともジョンは、壁の向こうに行くという自殺行為の愚かさを認めたが)。ペースを早めたことは、シリーズの終わりに向けて勢いをつけ、多くのストーリーをまとめ、キャラクターを再会させるという意味では、良い方に働いた。しかし、エピソード間にどれくらいの時間が経過したのか、シーンとシーンの間にどれくらいの時間が経過したのかが不明確になってしまっている。

 

「壁の向こう」の中では、まず(1)ジョンと仲間たちが〈夜の王〉を見つけ、(2)ジェンドリーをイーストウォッチに送り、(3)デナーリスに鴉を送り、(4)デナーリスがドラゴンストーンからイーストウォッチに向かい、(5)ジョンが帰ってくるまでが描かれる。念のために言っておくが、これはジョンとデナーリスだけのストーリーラインだ。

ゲーム・オブ・スローンズ

「ゲーム・オブ・スローンズ」の世界においても、本エピソードにおける移動距離はあまりにも長い。結果として、製作陣は重要な瞬間であるはずのシーンにも重みを与えられないでいる。

これまで見知らぬ者同士だったキャラクター達が会話する冒頭シーンは、ゆっくり時間をとっているという意味で、本エピソードの最良の瞬間だった。ジョンとジョラーがロング・クロウについて語るシーンは特に感動的だったし、ジェンドリーが兄弟団への不信感を吐露するシーンは、伏線を回収するという意味でも良いシーンだった。同時に、このシーンは、これらのキャラクターがいかに“安全か”ということにも光を当てた。ソロスを除けば、ジョン達は亡者に殺されるためだけに登場した名もなきキャラクターたちに守られていた。

アクションが始まるや否や、ソロスの死からヴィセリオンの喪失、ダニーと〈夜の王〉との対面まで息を着く間もなく、キャラクターたちにも視聴者にも状況を飲み込む時間が与えられていない。ベンジャンが現れて、ジョンを救い、そして死んでいったのを覚えているだろうか? このエピソードではあまりにも多くの出来事が起きた。

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「ゲーム・オブ・スローンズ」シーズン7第6話「壁の向こう」画像

そして、我々はまだウィンターフェルで起きたドラマに触れてもいない。シーズン7における物語の進み方で最も興味深いのは、キャラクターの頭の中を描くのに以前ほどの時間が使われていないというところだ。アリアがブレーヴォスにいる時、サンサがアイリーにいる時、我々は彼らの目を通して世界を見つめ、彼らの選択を理解していた。シーズン7においては、アリアとサンサの動機や最終的な目的を理解するのはどんどん難しくなっており、水面下でどんな動きが起きているのかサッパリわからない。しかし、ソフィー・ターナーとメイジー・ウィリアムズの演技は素晴らしく、どちらに父の死の責任があるか(もしくは無いのか)について言い争うシーンでは過去最高のパフォーマンスを見せている。

アリアがなぜサンサに敵意を見せるのか、という点に関しては様々な解釈ができる――彼女はサンサが辿ってきた道のりを知らず、彼女が今何をしているか、ということしか見ていない。そしてアリアの目には、サンサがジョンの影響力を弱め、ウィンターフェルの支配権を握ろうとしているように映っている。一方で、サンサにとっては、アリアは野蛮で、政治を理解しない暴力的な少女だ。彼らの価値観が異なるのは明らかだが、リトルフィンガーはここまで簡単に2人を敵対させられるものだろうか? リトルフィンガーが「ブライエニーはアリアの味方をするかもしれない」と示唆した瞬間、サンサは彼の思惑通りにブライエニーを追いやってしまった。それとも、彼らはこっそりと何かを企んでいて、シーズンフィナーレでそれが明らかになるのだろうか?

全ての疑問は、ブランの暗殺計画に使われた短剣と、その役割に戻ってくる。サンサとアリアの緊張感あふれるシーンでは、私はアリアが姉の顔を奪うのではないか(もしそうなったら、なんと歪んだ展開だろうか)と思ったが、アリアはサンサに短剣を渡しただけだった。これは何かのやり取りなのだろうか? アリアはサンサにその短剣でリトルフィンガーを殺して欲しいと思っているのだろうか?もし「ゲーム・オブ・スローズ」がこれまでのシーズンのように時間をかけてこのようなシーンを描いてくれたら、もう少し彼らの心の動きを追うことができたはずだ。しかし、今回ばかりは普通のTVシリーズのように、成り行きを見守るしかないようだ。

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「ゲーム・オブ・スローンズ」シーズン7第6話「壁の向こう」画像

これらの点は全て「何をそんなに急いでいるのか」という疑問を呼ぶ。予算や時間といった要因があるのは明らかだ。シーズン7では各エピソードにかける時間と予算が大幅に増えている。だからこそエピソード数が減っているのだが、こういったビジネス的な決断は「ゲーム・オブ・スローンズ」の物語に悪影響を与えており、プロットの穴が目立ち始めている。例えばシオンはどこにいるのだろう?ヤーラを助けてほしいと頼むため、2話前にドラゴンストーンに戻ってきたシオンだが、デナーリスが再び飛び去ってしまった今、彼は何もせずに待っているのだろうか。そして亡者が水に溺れるのだとしたら、どうやってヴィセリオンに鎖を付けたのか。そもそもあの鎖はどこから出てきたのか? ブランはウィンターフェルのどこにいるのか?

こういった点において、「壁の向こう」は「戦利品」のようなエピソードにはなかったペースの問題に苦しんでいる。アクションシーンは素晴らしく、ドラゴンが亡者を炎で燃やすシーンには良い意味で鳥肌が立ったが、もっと時間をとっていれば、それ以上のインパクトを与えられたはずだ。

 

ちょうどよい例がある。「壁の向こう」の最もパワフルなシーンは、子供を失ったデナーリスが船の上でジョンと語り合う、静かで繊細なシーンだった。デナーリスが脆さを見せたのは久しぶりであり、ジョンとダニーの間に芽生えつつあるロマンスを固めるだけでなく、女王の仮面の下に隠されたデナーリスの素顔を見せるという意味でも、大切なシーンだった。それはキャラクターの重要な一面であり、シーズンフィナーレにおいて、こういったシーンがアクションや素早いストーリーテリングの犠牲にならないことを願いたい。