僕は「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド(BotW)」DLCの第1弾「試練の覇者」にはあまり期待していなかった。2500円のエキシパンションパックには本DLCおよび冬に配信予定の「英傑たちの詩」が含まれる。後者は本格的な新ダンジョンやストーリーが収録されているということだったので、そちらがメインであると思っていたし、それはたぶん間違っていないだろうなとは今も思う。だが、だからといって「試練の覇者」をおまけ程度のDLCとして認識しない方が良い。はっきり言って、それは誤認である。
「剣の試練」というマスターソードに纏わる新しいチャレンジ、本編をより高い難易度で楽しめる「マスターモード」、それに「足跡モード」に「ワープマーカー」というマップ関連の新機能、「コログのお面」に「ラムダの秘宝」という装備品を入手できるクエスト、そして2500円を払った太っ腹なあなたのために特別に用意された「購入特典」という名の宝箱。以上が「試練の覇者」のコンテンツだ。任天堂はシステム画面からこれらをいつでも確認できるようにし、見事に面白い順に並べている。僕もその順番に則って紹介しよう。
初心に立ち返ってプレイしたい「剣の試練」
肉や魚から出汁をとった旨味たっぷりのスープのようだ
コース料理に例えるなら、「剣の試練」は本DLCのメインディッシュと言ってまず間違いないだろう。プレイヤーはすべての武器や装備品を奪われた状態で厳しい試練に挑むこととなるが、マスターソードを手に入れてからでないと挑戦できないので、プレイし始めて間もない人にとってはしばらく縁のないものだ。だが、本編では敵なしになったプレイヤーにとって、「剣の試練」はぜひともトライしてほしいチャレンジだ。BotWがなぜ世界から絶賛される傑作なのか、プレイすれば思い出すこと間違いなしだ。なぜなら「剣の試練」にはBotWのエッセンスがコンパクトに詰まって強調されているからだ。料理に例えると、そうね、本編が豚や鳥、それに魚の脂の乗ったジューシーな肉なら、「剣の試練」はそれらから出汁をとった旨味たっぷりのスープだ。
「剣の試練」は「ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス」の「大妖精の洞窟」や「ゼルダの伝説 風のタクト」の「魔獣の迷宮」のように、ダンジョンの最下層を目指していくという内容だ。各階には敵がいて、全滅させるまでは次の階に進めない。だが、「剣の試練」はこれらよりずっと複雑な仕組みになっており、大まかに言って2つの違いがある。冒頭にも書いたように、「剣の試練」ではすべてのアイテムを奪われた状態からスタートする。また、それぞれの階には独自の凝ったレベルデザインがある。単純に強い敵と戦うだけのダンジョンではなく、丁寧に作り込まれた重厚なコンテンツとして認識してほしい。
BotWでは自分で調達した食材から料理し、敵から武器や装備品を奪い、岩から木まで環境を有効活用するので、元々サバイバル性の高いゲームだったが、「剣の試練」ではさらにサバイバルに重点がおかれている。イメージとしては本編のサイハテノ島でプレイヤーに待ち受ける試練が近く、「何も持たない状態でのサバイバル」というアイディアがさらに深く掘り下げられている。
「剣の試練」には基本的に不要なものは存在しない
本編では終盤になると見向きもしないようなキノコに錆びた剣などが「剣の試練」では非常に貴重なアイテムとなる。そもそも、「剣の試練」には基本的に不要なものは存在しない。プレイヤーはひとつの階の敵を倒したら、次に進む前にその階を調べ尽くしてすべての物資を集めて、長い道のりに備えておかないと後半では痛い目に遭うだろう。防具も装備していないので、敵の刃物や重い棍棒は無防備なリンクの肌に直接ぶち込まれる。赤ボコブリンからの攻撃でもかなりのダメージを喰らうので、ボスキャラに打たれるとほぼ一撃必殺だ。
「剣の試練」は「序位」、「中位」、「極位」という3つのチャレンジがあり、それぞれの最下層までの道のりは独自のレベルデザインが楽しめる。パラセールで風に乗って敵からの攻撃をうまくかわしながら進むものから暗闇の中での戦いが繰り広げられるものまで、各階がプレイヤーに違ったサバイバル能力を要求している。プレイヤーはシーカーストーンだけは奪われていないので、リモコンバクダンにマグネキャッチといったアビリティも本編以上に役立つこととなる。激しい豪雨と雷の階、極寒の階、超高温の階では武器の属性や敵の弱点を意識して戦い、本編で培った知識が問われる。それは休憩場として機能している階についてもいえることだ。休憩場には料理鍋があって、限られた物資がある。これらと各ステージで集めたストックを合わせて、どのように料理するのかが後半のチャレンジを大きく左右する。
各階のレベルデザインはプレイヤーにBotWの1つ1つのエッセンスを思い出させるようにできている
「剣の試練」をプレイして、自分が本編でいかにゴリ押しでゲームを進めていたかを思い知る結果となった。「剣の試練」の実況プレイ動画で読者から様々なヒントや助言をもらっていなければ、僕はこの試練を乗り越えられただろうか? もう少し時間はかかったのかもしれないけれど、たぶんできたと思う。なぜなら、各階のレベルデザインはプレイヤーにBotWの1つ1つのエッセンスを思い出させるようにできているからだ。
BotWは広大なオープンワールドに優れたデザインを施していることが1つの特徴だが、プレイヤーが強くなるとそのレベルデザインには気づきにくい。そういう意味で「剣の試練」はコンパクトな形でBotWのエッセンスを味わえる内容に仕上がっている。だが、その分、死にゲーにも劣らない難易度は覚悟した方が良いだろう。ちなみに、僕は不思議なことに「序位」が一番難しく感じてしまった。最下層までの道のりがより長い「中位」と「極位」は後半からある程度食材も武器も防具も集まるので、少し楽になった。それでも「極位」の最下層は悶絶するほどの戦いが待っているので、手応えがないわけではない。
単なるハードモードではない「マスターモード」
BotW第1弾のDLCにハードモードが収録されると聞いて、頭をかしげた人も多かったようだ。ハードモードは最初からゲームに含まれるべきものであって、有料コンテンツとしてはふさわしくないという意見があった。
超激辛の死にゲー鍋が好きな人にはオススメ
僕は「マスターモード」でまだゲームの序盤しかプレイできていないけれど、すでに有料コンテンツとして納得している。なぜなら、敵の体力が上がり、徐々に回復するようになったといった調整はもちろん、敵の配置や場合によってはタイプまで異なるからだ。レベルデザインの一部に変更を施しているので、難易度が調整されただけのハードモードとは違う。
「マスターモード」には「通常バージョン」に登場しない敵もいる。空中から攻撃をしかけてくるボコブリンはやっかいだ。空オクタに板を浮かせてもらっている彼らは属性系の矢を放ってくる。近づくのは危険だが、倒すとゲットできる宝箱には強力なアイテムが入っている。
ちなみに、ゲームの途中で「通常モード」と「マスターモード」の切り替えはできない。また、「通常モード」をクリアしていなくても「マスターモード」でニューゲームを始めることはできる。
新たな発見のきっかけを作ってくる「足跡モード」と今更感の強い「ワープマーカー」
お肉がさらに美味しくなる秘伝のタレのような新機能
マップ関連の新機能としては「足跡モード」がかなりありがたい。BotWの世界は様々な発見があるが、150時間以上プレイしていると残された隠し要素を探し当てるのが困難になってくる。120ある試練の祠のうち、僕は103個所を網羅しているけれど、膨大なマップで何の当てもなく残りの13個所を探すのは辛いものがある。だが、「足跡モード」のおかげで、自分のまだ訪れていない場所がひと目でわかる。本編でやり残したことのあるプレイヤーにとって、「足跡モード」はかなり嬉しい機能だ。お肉がさらに美味しくなる秘伝のタレとでも言っておこう。
冷めてしまったスープのような機能
「ワープマーカー」は設置すると、その場所にいつでも瞬間移動できるようになる。ゲームの序盤であれば、これは便利な機能だったのかもしれない。高価な素材のとれる場所などに設置すると簡単にそこに戻って物資集めに取り掛かれる。だが、本DLCを購入したプレイヤーの大半は本編をすでにクリアし、ワープできる試練の祠もほとんど網羅している人が多いだろう。そういう人にとって「ワープマーカー」は残念ながらあまり役に立たない。素材には困らなくなったプレイヤーが多いだろうし、そもそも試練の祠のおかげでワープ機能には困っていないのだろう。残念ながら「ワープマーカー」は最初から収録してほしかった冷めてしまったスープのような機能としか言いようがない。
過去作の装備品が手に入る「コログのお面」と「ラムダの秘宝」
どうせならクエスト部分も安易なファストフードにしないで丁寧に料理してほしかった
その名からもわかるように、「コログのお面」というクエストではコログのお面が手に入る。これでリンクも可愛らしいコログのような見た目になり、近くにコログがいるとお面がカタカタ揺れる。BotWの膨大な世界に隠れんぼしている900体のコログを最後の1匹まで見つけたい人には必須のアイテムと言える。
「ラムダの秘宝」では「ムジュラの仮面」、「トワイライトプリンセス」、「夢幻の砂時計」といった「ゼルダの伝説」シリーズの過去作にちなんだ装備品が手に入る。コログのお面を含むと計9つのアイテムの宝探しをすることになるわけだが、装備品の入手が嬉しくてもクエストとして面白みがない。わかりやすいヒントを元に装備品が隠された場所を訪れ、スキャンしてゲットするだけだ。クエストにコストをかけられなかったのは理解できるが、ゼルダ姫の記憶を写真で辿ったように、DLCの宝物探しも写真の元をたどる形式にするだけでも楽しみが増したはずだ。
手に入る装備品は嬉しいが、どうせならクエスト部分も安易なファストフードにしないで丁寧に料理してほしかった。
本当におまけでしかない「購入特典」
焼肉屋のレジによくある無料のガム程度の価値しかない
君もいつかNintendo SwitchのTシャツを着てファンタジーの世界を走り回るのが夢だった? リンクが今どきの学生に見えてしまうこのTシャツは3つある「購入特典」の唯一のオリジナルアイテムだ。他の2品はルピーにバクダン矢というどこにでもあるアイテムだ。これらは始まりの台地の「どこかに」隠されており、それ以上のヒントはない。焼肉屋のレジによくある無料のガム程度の価値しかないので、どこにあるかわからなかったらすぐにあきらめるだろう。
以上が「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」DLCの第1弾「試練の覇者」のレビューである。本編のレビューはこちらから確認できる。