荒涼たる未知の惑星で迫り来る数多の未確認生命体。緊張感と孤独感によって蝕まれる精神。本作はこれらに直感的な操作性を加えることで刺激的なゲームプレイを提供している。しかし、そんな刺激はほんの少し環境を変化させただけで、影も形も無く消え去ってしまった。果たしてふたつの顔を持つ本作をどう評価すれば良いのだろうか?
「Farpoint」はPlayStation VR専用のFPSタイトルだ。開発は2013年に設立されたサンフランシスコのデベロッパー「インパルスギア」、販売は「ソニーインタラクティブエンターテインメント」が担当している。
「銃を構え、狙い、撃っている」という感覚を強く実感できる
まず本作において重要なのは「シューティングコントローラー」(以下ガンコン)に対応しているという点である。VRシューティング用に開発されたこのデバイスは形こそオモチャのようだが、視界をヘッドマウントディスプレイに覆われるVRにおいて見た目はさほど重要ではない――納得しているかは別だ――。パッと見の安っぽさに反して持ち易さと操作性は良好で、重さもそれなりにある。更には振動機能も搭載されているため「銃を構え、狙い、撃っている」という感覚を強く実感できる。なかなか良いガンコンと言えるだろう。
これまでのベーシックなFPSを楽しんできたユーザーが一度は経験したいであろうVR体験を家庭で味わえる
本作はそんなガンコンに本格対応した最初のFPSだ。更に言えばPS VRにおける初の本格専用FPSでもある。一応ロンチタイトルとして発売された「RIGS」もあるが、あちらはVR+パッドという環境に最適化されており、従来のFPSとは一線を画している。それに対して本作はガンコンによる直感的なエイムと、スティック操作による制限の無い立ち回りという、これまでのベーシックなFPSを楽しんできたユーザーが一度は経験したいであろうVR体験を家庭で味わえる。
しかし、多くのVRゲームにおいて移動に制限が課せられているのは当然理由がある。幾度となく語られてきた「酔い」という問題だ。とはいえ私はこれまで3D酔いはおろか、VR酔いすら未経験なので、意気揚々と本作をプレイし始めた……のだが、ものの15分程度で完全に酔ってしまった。本作ではスティックによるカメラ操作が初期設定だと不可能になっており、オプションから4つの操作方法(滑らかに動く/小さく回転/大きく回転/押し込んで回転)と、回転速度を選択できる。おそらくここで調子に乗って「滑らかに動く」を選択してしまったのが酔いを引き起こした一因だろう。実際にプレイする際にはしっかり吟味して選択すべきだ。さもなくば嘔吐一直線である。
そんなこんなで開始早々休憩を余儀なくされてしまったが、プレイしないことにはレビューはできない。なんとかプレイするためにまず試したのはカメラ操作が20~30度の角度で動く「小さく回転」への変更だ。それと同時に椅子に座るのを止め、立ってプレイすることにした。流石に歩くのは不可能だが、VR空間では立っているのに実際の身体は座っているという「認識の差異」を軽減するのがこの行動の狙いである。カメラ操作の変更が効いたのか、それとも立ったのが功を奏したのかは定かではないが、結果的に酔いは一切無くなった。立っているとすこぶる疲れるのが難点だが、ある意味リアルかもしれない。
そこからは一気に最後までプレイし続けるほどのめり込んだ。グラフィックはPS4 Proでプレイしたこともあってか、テクスチャこそ非VRタイトルほど精細ではないものの、解像度は高めで好印象。ロケーションも荒野だけかと思いきや、断崖絶壁やSF色の強い建造物など、思いのほか種類があった。画面上には邪魔になるUIは一切表示されず、自身のライフは左手のメーターで確認可能となっている。ダメージを受けると青いゲージがどんどん短く赤くなっていくという、戦闘中さりげなく確認可能な良いデザインだ。
銃器が画面上に映り、なおかつ自身もそれをしっかりと持っているという感覚を味わえる
しかしなんといってもガンコンによる直感的なエイム操作は素晴らしい。PS VRにおけるモーションコントローラーを用いたエイム操作は「Until Dawn: Rush of Blood」が存在するが、やはり銃器が画面上に映り、なおかつ自身もそれをしっかりと持っているという感覚を味わえる本作には勝てない。ゲーム中には5種類の武器が存在し、リロードの必要はあるものの、弾薬を拾う必要はなく事実上無限となっている――サブウェポンのグレネード弾などは拾う必要有り――。リロードはボタン操作となっているので「せっかくの没入感を削ぐのでは?」と思うかもしれないが、大気中のエネルギーを吸収して弾薬へと変えるという世界観に合わせたものになっているので気になることはない。
個人的にお気に入りだったのはショットガンだ。急な襲撃を仕掛けてきた敵を横目で確認し、片手で構えたショットガンをぶっ放す! そのアドレナリンを大量放出せんばかりのある種の無敵感、これは他ではなかなか味わえない。更に、倒した敵は一定時間その場に残り、追い撃ちすると粉々に吹っ飛ばすことができるので、「鉛弾で挽き肉になりな!!」(※鉛弾ではない)と、まるでアウトローないしダークヒーローになったかのような楽しみ方も可能だ。なぁに、弾は無限なので気にすることはない。思う存分ぶっ放しまくれ! ただし、リロードを忘れると後々大変なことになるので気を付けろ。
快感たるや「その道のプロでしょ、このムーヴ」と自画自賛してしまうほどに格別
加えて戦闘では「音」が非常に重要な要素だ。移動が自由であるがゆえに敵の攻撃も様々な角度から向けられるのだが、敵は攻撃直前に鳴き声などの音を発するので、それに反応して対処することとなる。ある場面では敵の鳴き声が背後から聴こえ、振り向くと敵の攻撃が当たる直前だった。瞬時に狙いを定めてショットガンをお見舞いしたわけだが、その快感たるや「その道のプロでしょ、このムーヴ」と自画自賛してしまうほどに格別だった。360度見渡せるVRと直感的なエイム操作に3Dオーディオが加わることで実現するこれまでにない体験と言えるだろう。
敵もそれなりの種類がおり、こちらの武器もそれぞれ個性があって得手不得手があるので適切な武器切り替えが必要だ。敵は急に出現することもあれば、一度姿を見せてから焦らすかのように離れ、迂回してから襲ってくる場合もある。加えて出現と共に焦燥感を煽るBGMが始まるので、緊張感ある戦闘が楽しめた。敵のデザインもおぞましく、中でもボス扱いとなる「クイーンスパイダー」は主人公もプレイヤーの気持ちを代弁するかの如く「おいおい嘘だろ!?」と漏らすビッグサイズで、迫力はなかなかのものだ。クイーンとの戦闘自体はイベントに近いが、同時に雑魚も大量に出現するので侮れない。4、5回負けたのは内緒。
後半に入ると少々ゲームバランスにムラがあるように感じた
しかし、後半に入ると少々ゲームバランスにムラがあるように感じた。先程も述べたとおり、本作の武器は種類が少ない代わりに個性が強く得手不得手がハッキリしているのだが、その上で装備できるのは2つまでとなっている。なので後半に入り、敵の大量出現が続き始めた時に不得手な組み合わせの装備をしていると、かなり消極的な戦闘をしなければならない。加えて武器が配置されているポイントは限られているため、それをスルーしてしまうと辛い組み合わせのまま当分進まなければなくなってしまう。もうひとつ、「しゃがみ状態になりにくい」ということも人によっては起こりえる問題だ。オーソドックスなFPSであれば敵の攻撃が激しくなってくればなにかしらの遮蔽物に隠れ、時にはしゃがんで更に的を小さくするという行動を取るわけだが、本作にはしゃがみボタンは無い。代わりに実際に姿勢を低くするとしゃがみ状態へと移行するようになっている。しかし、ソファなどに座っていると姿勢が辛くなるし、立ってプレイしている場合はトラッキングエリアから外れてしまったりもする。かなりプレイ環境に配慮しないと難易度が上がってしまうのだ。“酔い”というある意味最強の敵も存在するため、ボタン操作でのしゃがみ状態が欲しいところだ。やられてもリスタートが一瞬で済むのが幸いといったところか。
ゲームプレイ面ではとても楽しめた本作だが、ストーリーにおいては突出する場面もない凡作という印象だ。宇宙空間にて発見された新たなエネルギーを研究する宇宙ステーション「ピルグリム」。連絡船のパイロットであるプレイヤーはそこで働く研究者エヴァ・タイソンとグラント・ムーンを迎えに行く予定だったが、突如としてエネルギーが暴走。巨大なワームホールが発生し、全てが飲み込まれてしまう。そうして未開の惑星へと飛ばされたプレイヤーは僅かな手がかりをもとに、二人の捜索を行う……というのが物語の流れになっている。
キャンペーン自体は6時間程度でクリア可能なので、ストーリーはオマケとして考えるべきだろう
荒野を進んでいくと「データの欠片」と呼ばれるホログラムがあり、それを解析することでその場にいた二人の会話が再生され、どこを目指したのか、何が起きたのかが明かされていく。特定のポイントまで行くと記録データの修復が進んだという形でカットシーンに入り、二人が残した記録を辿ることとなるが、およそ展開が予想できる内容で進んでいくのであまり先が気にならない。結末こそ予想外ではあったが、それが印象的かと言われるとそうでもなく、謎が多いままなので消化不良だ。加えてキャラクター造形が少々不気味の谷に入ってしまっているのであまり好きになれない。キャンペーン自体は6時間程度でクリア可能なので、ストーリーはオマケとして考えるべきだろう。
この6時間という数字を短いと取る人も多いと思うが、VRは負荷が高くプレイ中は非常に疲れることを考慮すると丁度良いのではないかと個人的に思う。キャンペーン以外にもスコアアタックを目指す「チャレンジ」や、他プレイヤーと共に4つの専用ステージをクリアする「協力」モードもあるので、コンテンツ量は極端に少ないというわけではない。ガンコン同梱版であればむしろお得な印象を受けた。
さて、ここまでおおよそ好ましく書いてきたわけだが、あくまで上記は「ガンコンを使用した場合」のレビューである。しかし、本作はガンコン“専用”ではなく“対応”タイトルであり、DUALSHOCK 4を使ったプレイも可能だ。そしてパッドを使うと評価は大きく変わる。
肩をすぼめ握り締めたコントローラーで必死に狙いを定める姿は、例えヘッドセットで見えていなくとも容易に「情けない」と想像できてしまう
パッド操作でもエイムはモーションコントロールとなる。つまり、撃ちたい方向にパッドを向けてR2ボタンを押すわけだ。そうなると銃を構えていた感覚から一変、一気に滑稽に感じてしまう――ガンコン姿も傍から見れば滑稽というのは別として――。肩をすぼめ握り締めたコントローラーで必死に狙いを定める姿は、例えヘッドセットで見えていなくとも容易に「情けない」と想像できてしまうのだ。そうなってしまったが最後、同じ場面であっても緊張感や刺激、快感は一切湧いてこない。ガンコンを経験していない状態であれば多少違うのかもしれないが、それでも認識の差異による没入感の減少は相当なものだろう。
また、音響環境もある程度しっかりしていないと魅力は少々削がれてしまう。前述したとおり、敵は様々な方向から攻めてくる為、音を頼りに対処しなければならない。これがTVのスピーカーなどでは、如何に3Dオーディオ処理がされていようと背後からの襲撃は瞬時に反応できないし、それを未然に防いた時の快感も味わえないのだ。PSVRはヘッドホン推奨となっており、Co-opモードでフレンドとボイスチャットをすることも考慮すると純正の「プレミアムワイヤレスサラウンドヘッドセット」辺りを用意すべきかもしれない。
本作を最大限楽しみたいのであれば、ただでさえ高価なVRに加えて、ガンコン+サラウンド環境の用意というハードルを越えなければならない
以上を踏まえて言えるのは、本作の評価は少々難しいということだ。仮想現実で描かれる未開の惑星を舞台とした異形達との戦いは、直感的かつ刺激的である。だがそれもガンコンあってこその体験であり、如何にVRであろうと通常のパッドを用いれば没入感は極端に失われ、緊張感も削がれてしまう。本作を最大限楽しみたいのであれば、ただでさえ高価なVRに加えて、ガンコン+サラウンド環境の用意というハードルを越えなければならないのだ。とはいえ、それを越えた時に味わえる感覚は格別であり、是非一度体験してほしいものであるのも確かである。なので今回はあえて理想の環境を用意した状態での評価を下させて頂く。
追記修正(2017/06/26)
※オーディオやトラッキングの部分を修正しました。当初、一部に誤った認識があったことをお詫びいたします。